【相続放棄の注意点】良かれと思った放棄がトラブルの火種に?
~「母と私だけ」の相続で子供が陥りやすい落とし穴~
大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
親が亡くなり、相続の手続きについて調べていると必ず目にする言葉、「相続放棄」。
「亡くなった父に借金があった」「疎遠だったので関わりたくない」といった理由で検討されることが多い手続きですが、この制度、実は非常に誤解が生じやすいポイントがあります。
特に危険なのが、「相続人が配偶者(母)と子供(私)だけ」というごく一般的なケースです。
「私が放棄すれば、母が全部相続できるから丸く収まるはず」。
もしそう考えて安易に相続放棄を選ぼうとしているなら、一度立ち止まってください。その選択が、残されたお母様を予期せぬトラブルに巻き込み、親戚関係を複雑にしてしまう可能性があります。
今回は、司法書士の現場で実際に相談が多い事例を元に、「子供が相続放棄をする際の致命的な注意点」を深掘りして解説します。
1. 相続放棄の基本ルール:効果と影響
相続放棄とは、管轄の家庭裁判所に申述を行うことで、「初めから相続人ではなかったことになる」手続きです。
- プラスもマイナスも全て放棄: 預貯金や不動産も受け取れませんが、借金の返済義務もなくなります。
- 期限は3ヶ月: 原則として、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に手続きが必要です。(なお、相続開始時点については民法が適用されます)
民法の起算日は、「初日不算入の原則」が基本で、日・週・月・年単位の期間では初日(その日)を数えず、翌日から数え始めます(民法140条)。ただし、期間が午前0時から始まる場合は初日も算入され、時間単位(分・秒など)の場合は即時から計算(即時起算)されます(民法139条)。「〇日後」の計算では、初日不算入なら翌日を1日目とし、当日起算ならその日を1日目とします。
- 撤回は不可: 一度受理されると、原則として取り消しはできません。
ここまでは多くの方がご存知ですが、問題は「放棄した後、その相続権はどうなるのか?」という点です。
2. 「子供の放棄」で起こる相続権の移動トラブル
ここが今回のメインテーマです。
例えば、お父様が亡くなり、相続人が「お母様」と「あなた(子供)」の2名だったとします。
よくある誤解:「私が辞退すれば、母一人のものになる」
あなたはこう考えるかもしれません。
「父の借金はないけれど、実家の名義や預貯金はすべて母に譲りたい。私が『相続放棄』をすれば、相続人は母一人になり、面倒な手続きもなくすべて母のものになるだろう」と。
子供(第1順位の相続人)が全員相続放棄をすると、相続権は消滅するのではなく、次の順位の相続人へと移動(シフト)します。
放棄した瞬間に「新たな相続人」が出現する
民法では、相続の優先順位が以下のように決まっています。
まず、配偶者(妻・夫)はどのような場合でも相続人です。それに加えて下記の順位で相続がされることになります。
- 第1順位:子供(直系卑属、親がいない場合には孫)
- 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥・姪)
子供であるあなたが相続放棄をすると、あなたは「初めから相続人でなかったこと」になります。すると、お母様の共同相続人として、次順位であるお父様の「ご両親(祖父母)」が登場します。
さらに、ご両親も既に他界されている場合(実務上はこのケースが大半です)、なんとお父様の「兄弟姉妹(叔父・叔母)」が相続人になります。
結果どうなるか?
「母に全財産を譲りたい」という善意で放棄した結果、以下の事態を招きます。
- 見知らぬ相続人との協議: お母様は、実家の名義変更一つするにも、疎遠かもしれない義理の兄弟(叔父・叔母)全員に連絡を取り、実印を押してもらわなければなりません。
- ハンコ代の請求リスク: 叔父・叔母から「協力する代わりにハンコ代(協力金)が欲しい」と言われたり、最悪の場合、法定相続分(遺産の4分の1)を主張されるリスクがあります。
- 認知症等のリスク: もし叔父・叔母の中に認知症の方がいれば、遺産分割協議ができず、成年後見人の選任が必要になるなど、手続きが泥沼化します。
つまり、安易な相続放棄は、お母様を「対 叔父・叔母」という厄介な関係に放り込むことになるのです。
そもそも、母に負担をかけないために相続放棄をしたのにその結果、むしろ印鑑をいただく方が増える可能性があり、むしろ負担が大きくなるという事態が生じるのです。
3. ケース別:正しい対処法
では、どうすればよかったのでしょうか?目的によって正解は異なります。
ケースA:借金はないが、母に全財産を集中させたい場合
この場合、選ぶべきは「相続放棄」ではなく、「遺産分割協議」です。
あなたとお母様の間で「母がすべての財産を取得する」という内容の遺産分割協議書を作成し、あなたが署名・捺印すれば良いのです。
遺産分割協議であれば、相続人はあくまで「母と子」のまま確定します。相続放棄と違って相続権が次順位(叔父・叔母)に移ることはないため、外部を巻き込まずに平和的に解決できます。
ケースB:明らかに多額の借金があり、絶対に関わりたくない場合
この場合は「相続放棄」が必要です。しかし、自分だけ放棄して終わりにしてはいけません。
前述の通り、あなたが放棄すると借金の返済義務もお母様と、次順位の「祖父母」や「叔父・叔母」に移ってしまいます。
親族間でトラブルにならないよう、以下の対応が必要です。
- 次順位の方への連絡: 「父に借金があり、私は相続放棄をします。このままだと皆さんに相続権(と借金)がいってしまうので、皆さんも放棄の手続きをしてください」と伝える仁義が必要です。
- リレー放棄(連鎖放棄): 子が放棄→受理通知を渡す→次に祖父母や叔父叔母がそれを使って放棄、というように連携して手続きを進めます。
4. その他、やってはいけない「NG行動」
相続放棄を検討している場合、手続き完了まで絶対にやってはいけないことがあります。これをしてしまうと、「法定単純承認」とみなされ、放棄ができなくなる(=借金もすべて背負うことになる)恐れがあります。
- 遺産の処分・消費: 亡くなった方の預金を引き出して自分のために使ったり、車や家財道具を勝手に売却・廃棄すること。
- 形見分けの範囲を超える持ち出し: 高価な貴金属や時計などを持ち帰る行為は「処分」とみなされるリスクがあります(一般的な写真や愛用品程度なら問題ないとされていますが、線引きは慎重に)。
- 債務の支払い: 亡くなった方の借金を自分の財産で一部返済してしまう等の行為も、承認とみなされる場合がありますのでしない方が賢明でしょう。基本的には、故人の財産ではなく自分の財産での弁済は単純承認にあたらないとされていますが、関わりを立ちたいのであればおすすめしません。
5. まとめ
相続放棄は「3ヶ月」という期限があるため、焦って判断してしまいがちです。しかし、今回解説したように、家族構成や財産状況によって「本当に放棄すべきか」「放棄するなら誰まで巻き込むか」の判断は大きく変わります。
まとめ:子供が相続放棄をする前のチェックリスト
- 目的は「借金回避」か?それとも「母への財産集中」か?
- 「母への財産集中」が目的なら、放棄ではなく遺産分割協議を選択する。
- 「借金回避」のために放棄する場合、次に誰が相続人になるか把握しているか?
- 次順位の相続人(祖父母、叔父叔母)との関係性は良好か?連絡は取れるか?
特に、戸籍を辿って次順位の相続人を特定したり、疎遠な親族への連絡・調整を行うのは、精神的にも事務的にも大きな負担となります。司法書士にご依頼いただければ、戸籍の収集から相続関係図の作成、家庭裁判所への申述書の作成、そして次順位の方への通知サポートまで、一貫してお手伝いすることが可能です。
「良かれと思ってやったこと」が、残されたご家族の負担にならないように。まずは専門家へご相談ください。
関連動画
関連記事


当事務所のご案内
私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






