本店の表示が変わったときの登記|住居表示の実施・地番の変更・ビル名の変更と非課税の扱い

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

ある日、市役所から「住居表示を実施します」という通知が届いた。あるいは、入居しているビルの名前が変わった。会社はどこにも動いていないのに、登記簿に記録されている本店の表示だけが実態と合わなくなる場面があります。こうしたときに必要なのは本店移転の登記ではなく、本店の変更の登記です。両者は名前が似ていますが、添付する書面も登録免許税の扱いもまったく異なり、選び方を誤ると本来かからないはずの費用が発生します。本記事では、本店の表示が変わる原因ごとの登記の要否、非課税となる場合の条件、あわせて必要になる手続き、そして実務でよくある失敗事例まで、堺市で法人登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。

第1章 本店移転の登記と本店の変更の登記の違い

(1)会社が動いた場合と、表示だけが変わった場合

本店の所在地は登記事項ですので、登記簿に記録された表示と実際の所在地が食い違う状態は解消しなければなりません。ただし、その食い違いがなぜ生じたのかによって、申請する登記の種類が変わります。

会社が実際に事務所を移した場合は、本店移転の登記です。これに対して、会社はまったく動いていないのに、市町村の側の事情で住所の表し方が変わった場合は、本店の変更の登記になります。前者は会社の意思決定を伴う登記であり、後者は行政の措置に合わせて登記簿の記載を実態に合わせるだけの登記です。

この違いは、必要な議事録にも表れます。本店移転であれば、定款の定め方によっては株主総会の決議が必要になり、取締役会や取締役の過半数の一致による決定も必要です。一方、住居表示の実施による変更では、会社が何かを決議したわけではありませんので、議事録は不要です。

(2)三つの登記の使い分け

法務省が示している整理では、会社や法人の所在地の表記が実態と合わない場合の登記は、次の三つに分かれます。

一つめは、本店の所在地が誤って登記されている場合の「本店の更正の登記」です。設立のときから表示が間違っていた、というケースがこれにあたります。二つめは、住居表示の実施や行政区画の変更(地番が変更された場合に限ります)、土地改良事業・区画整理事業等による「本店の変更の登記」です。三つめが、実際に本店を移転した場合の「本店移転の登記」です。

どれを選ぶかは、表示が変わった原因で決まります。原因が行政の措置であれば変更、もともとの記載が誤りであれば更正、会社が動いたのであれば移転です。

① 登記簿にはどう記録されるか

本店移転の登記をすると、登記簿には移転の年月日とともに、旧本店の記載に下線が引かれ、新しい本店が記録されます。本店の変更の登記でも新旧の表示が記録されますが、登記の原因が住居表示の実施である旨が記録されますので、会社が移転したわけではないことが登記簿の上で分かります。

更正の登記の場合は、誤った記載を正しい記載に改めるものですので、記録のされ方がさらに異なります。取引先が登記事項証明書を見たときの印象も変わりますので、原因に応じた登記を選ぶことには実務上の意味があります。

Q. 住居表示の実施で本店の表示が変わりました。放置しているとどうなりますか?

A. 登記事項に変更が生じた以上、変更の登記を申請する義務があります。登記の事由が発生した時から二週間以内が原則であり、これを怠った場合には代表者個人に対して百万円以下の過料が科される可能性があります。実務上は、住居表示の実施から相当期間が経過してから気づかれるケースも多く、その場合でも速やかに申請することになります。また、登記簿上の住所と実際の住所が食い違っていると、金融機関の手続きや許認可の更新で説明を求められることがありますので、通知を受け取った段階で対応されることをおすすめします。

第2章 本店の表示が変わる原因と、登記が必要かどうか

(1)住居表示の実施

住居表示とは、建物に番号を付けて住所を分かりやすく表す制度で、市町村が区域を定めて実施します。実施されると、それまで地番で表していた住所が「○番○号」という形に変わります。会社は動いていませんが、本店の表示は変わりますので、本店の変更の登記が必要です。

この場合の添付書面は、市町村長の証明書、または住居番号決定通知書です。市町村から届いた通知書をそのまま使えることが多いため、通知が届いたら捨てずに保管しておくことが大切です。

(2)行政区画の変更・地番の変更

市町村の合併や町名の変更などにより、住所の表し方が変わることがあります。このうち、地番が変更された場合には本店の変更の登記が必要とされています。

一方、町名だけが変わり地番はそのままというケースなど、行政区画の名称の変更にとどまる場合には、登記の変更があったものとして扱われ、会社の側で申請をしなくてもよいことがあります。どちらにあたるかは市町村からの通知の内容で判断できますが、迷われる場合は管轄の法務局に確認しておくと確実です。

(3)土地改良事業・区画整理事業

区画整理などの事業によって土地の区画が組み替えられ、住所の表示が変わる場合も、本店の変更の登記の対象とされています。この場合も、市町村長の証明書を添付します。

区画整理は事業の完了までに長い期間がかかりますので、換地処分の公告があった時期を確認したうえで、登記の時期を判断することになります。

(4)ビル名・マンション名の変更

入居しているビルの所有者が変わったり、名称の変更が行われたりして、建物の名称だけが変わることがあります。この場合にどう対応するかは、登記簿に記録されている本店の表示に建物の名称まで含まれているかどうかによって変わります。

本店の表示は、地番または住居表示の番号までで登記することができ、建物の名称や部屋番号まで必ず登記しなければならないものではありません。建物の名称を登記していない会社であれば、名称が変わっても登記簿の記載に影響はありませんので、登記の必要はないことになります。一方、建物の名称まで含めて登記している場合の取り扱いは、変更の原因によって判断が分かれる部分ですので、申請の前に管轄の法務局に確認しておくと安心です。

① 原因別の整理

本店の表示が実態と合わなくなる主な原因と、申請する登記の種類を整理すると、次のようになります。

原因 申請する登記 主な添付書面
住居表示の実施 本店の変更 市町村長の証明書または住居番号決定通知書
行政区画の変更(地番が変更された場合) 本店の変更 市町村長の証明書
土地改良事業・区画整理事業等 本店の変更 市町村長の証明書
設立時から表示が誤っていた 本店の更正 誤りであることを明らかにする書面
実際に事務所を移した 本店移転 株主総会議事録・取締役会議事録など

第3章 本店の変更の登記の手続きの流れ

(1)市町村から届く通知を確認する

住居表示が実施される区域では、実施の前に市町村から案内が届き、実施後に新しい住居番号を知らせる通知書が交付されます。まずはこの通知書の内容を確認し、変更前の表示と変更後の表示、実施の年月日を押さえます。

通知書を紛失している場合でも、市町村の窓口で住居表示の実施に関する証明書を発行してもらうことができます。手数料は市町村によって異なりますが、無料としている自治体もあります。

(2)登記すべき事項を確定する

登記申請書には、変更後の本店と変更の年月日、変更の原因を記載します。ここでいう年月日は、住居表示が実施された日であり、通知書に記載されています。

あわせて、登記簿に現在どのように記録されているかを確認しておきます。登記事項証明書を取得するか、登記情報提供サービスで確認すれば、記載の細かな表記まで分かります。変更前の表示を正確に把握しておかないと、申請書の記載が登記簿と合わなくなります。

(3)法務局に申請する

申請先は本店の所在地を管轄する法務局です。窓口、郵送、オンラインのいずれでも申請できます。添付するのは、市町村長の証明書または住居番号決定通知書と、代理人に依頼する場合の委任状です。議事録や株主リストは必要ありません。

① 手続きにかかる期間の目安

通知書が手元にあれば、申請書の作成自体は難しいものではありません。市町村での証明書の取得に一日から数日、法務局での処理に一週間程度を見込んでおくと、全体として二週間以内に収まります。

ただし、住居表示の実施は区域単位で行われますので、同じ時期に多数の会社や個人が手続きを行います。市町村の窓口が混み合うことがありますので、通知を受け取ったら早めに動かれるとよいでしょう。

Q. 住居表示の実施と同じ時期に、代表取締役も引っ越しをしました。登記はまとめてできますか?

A. 同じ法務局が管轄する登記であれば、一件の申請書にまとめて申請することができます。ただし、本店の変更の登記が非課税となる場合でも、代表取締役の住所変更の登記には登録免許税がかかりますので、その分は納める必要があります。なお、代表取締役の住所も住居表示の実施によって変わったという場合には、その部分についても非課税の扱いを受けられる可能性がありますので、市町村長の証明書に代表取締役の住所が含まれているかを確認しておくとよいでしょう。

第4章 費用の扱いと、あわせて必要になる手続き

(1)登録免許税が非課税になる条件

住居表示の実施による本店の変更の登記は、市町村長の証明書または住居番号決定通知書を添付することによって、登録免許税が非課税となります。根拠は登録免許税法の規定であり、証明書の添付が非課税の条件になっている点が重要です。

証明書を添付せずに申請すると非課税の扱いを受けられません。本店移転の登記として申請してしまった場合には、管轄内の移転であっても三万円の登録免許税が必要になります。ここが、本店移転と本店の変更を区別する実際上の意味の一つです。

(2)不動産を所有している場合

会社が不動産を所有している場合、不動産の登記簿にも所有者として会社の本店が記録されています。こちらは商業登記とは別の登記簿ですので、商業登記を変更しても自動的には直りません。

不動産の所有者の住所変更については、令和八年四月一日から申請が義務化されています。施行日より前に生じていた変更は令和十年三月三十一日までに、施行後に生じた変更は変更の日から二年以内に登記を申請する必要があり、正当な理由なく怠った場合には五万円以下の過料の対象となります。会社法人等番号が登記されている法人については、登記官の職権による変更登記の仕組みも設けられています。

(3)許認可・税務・取引先への届出

本店の表示が変わると、許認可の届出先や税務署への異動届出、社会保険の手続きでも住所の変更が必要になります。建設業許可や宅地建物取引業免許など、許可を受けている事業では、変更届の提出期限が定められていることがありますので、登記が完了したら速やかに手続きを進めます。

取引先や金融機関に対しては、登記事項証明書を提示して説明することになります。移転ではなく住居表示の実施による変更であることが登記簿から分かりますので、証明書を一通取得しておくと説明がスムーズです。

① 費用の目安

住居表示の実施により、株式会社が本店の変更の登記を単独で申請する場合の実費の目安は、次のとおりです。

項目 金額
登録免許税(市町村長の証明書を添付した場合) 非課税
住居表示実施証明書(市町村、一通あたり) 無料から300円程度
登記事項証明書(登記完了後の確認用、一通) 600円
参考:本店移転の登記として申請した場合の登録免許税(管轄内) 30,000円

上記はあくまで一般的な目安であり、実際の費用は市町村の手数料の定めや、あわせて申請する登記の内容によって変動します。

第5章 本店の表示の変更でよくある失敗事例とリスク回避のポイント

(1)本店移転の登記として申請してしまった事例

住居表示の実施で本店の表示が変わった会社が、住所が変わったのだから本店移転だと考え、株主総会議事録と取締役会議事録を作成したうえで本店移転の登記を申請しました。登記自体は受理されましたが、登録免許税として三万円を納めています。

市町村長の証明書を添付して本店の変更として申請していれば、登録免許税はかかりませんでした。さらに、登記簿には本店を移転した旨が記録されましたので、後日、取引先から「事務所を移されたのですか」と問い合わせを受けることにもなりました。原因の見極めを一度誤ると、費用と記録の両面に影響が残ります。

(2)通知書を保管しておらず、証明書の取得からやり直した事例

住居表示の実施から二年ほど経ってから、融資の申込みの際に登記簿上の本店が古い表示のままであることが判明しました。会社では住居番号決定通知書が見当たらず、市町村の窓口で証明書を取得するところから始めることになりました。

証明書自体はすぐに発行されましたが、担当者が窓口を訪ねる時間を確保できず、融資の審査に必要な登記事項証明書の提出が一週間ほど遅れています。通知書は、届いた時点で会社の重要書類として保管しておくと、後々の手間が減ります。

(3)商業登記だけ直して不動産登記が残っていた事例

本店の変更の登記を済ませたものの、会社名義の不動産の登記簿に記録された住所は古い表示のまま残っていました。数年後、その不動産を担保に入れる際に、登記簿上の住所が現在の本店と一致しないことが指摘され、先に住所の変更の登記を入れる必要が生じました。

商業登記と不動産登記は別の登記簿ですので、片方を直しても他方は自動的には直りません。不動産を所有している会社では、商業登記を変更した時点で不動産の登記も確認しておくと、後から慌てずに済みます。

① 通知が届いたときのチェックポイント

住居表示の実施の通知を受け取ったら、次の順に確認しておくと漏れが生じにくくなります。実施の年月日と新旧の表示、通知書の保管、登記簿上の現在の表示、会社名義の不動産の有無、そして許認可や税務の届出先。この五点を一度に洗い出しておけば、登記の後に続く手続きも見通しが立ちます。

Q. 本店の表示は変わっていませんが、登記簿の本店にビル名が入っていません。今から追加できますか?

A. 本店の表示は、地番または住居表示の番号までで登記することができますので、建物の名称や部屋番号が登記されていないこと自体は問題ではありません。取引先への案内などの都合で建物の名称まで登記に反映させたい場合には、本店の表示を改める登記を検討することになりますが、原因が行政の措置ではありませんので、非課税の扱いにはなりません。実益と費用を比べたうえで判断されるとよいでしょう。ビル名を含めて登記している場合の名称変更の取り扱いとあわせて、事前に管轄の法務局に確認しておくことをおすすめします。

本店の表示が変わったときにまず確かめるべきなのは、会社が動いたのか、それとも行政の措置で表示だけが変わったのか、という一点です。ここを取り違えなければ、必要な書面は市町村長の証明書だけで足り、登録免許税もかかりません。通知書を保管し、登記簿上の表示を確認し、不動産や許認可への波及まで一度に洗い出しておけば、二週間という期限のなかで落ち着いて手続きを終えることができます。ご自身のケースがどれにあたるか判断に迷われる場合は、申請の前に専門家に相談し、余計な費用が生じない形で進めることをおすすめします。

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司法書士・行政書士/植田麻友

 

1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。

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