大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
代表取締役の交代は、事業承継や役員の高齢化、経営体制の見直しなど、会社にとって節目となる場面で発生します。ところが、いざ登記を申請しようとすると、辞任なのか任期満了なのかによって必要な書類が変わり、誰の印鑑証明書がいるのかで迷われる方が少なくありません。同じ「代表取締役の交代」でも、交代の理由が違えば添付書面はまったく別のものになります。本記事では、代表取締役の変更登記の基本から、辞任・任期満了・解任・死亡という四つのパターンごとの必要書類、印鑑と印鑑証明書の扱い、そして実務でよくある失敗事例まで、堺市で法人登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。
第1章 代表取締役の変更登記の基本と取締役の変更登記との違い
(1)代表取締役の変更登記が必要になる場面
代表取締役は、会社を代表して契約を結ぶ権限を持つ役員であり、その氏名と住所は登記事項として登記簿に記録されています。したがって、代表取締役が交代したときは、その事実を登記簿に反映させる必要があります。
交代が生じる理由は、大きく四つに分かれます。本人の意思で退く辞任、任期が満了して退任する任期満了、会社の側が地位を奪う解任、そして死亡です。このほか、代表取締役の地位はそのままで住所や氏名が変わった場合にも変更登記が必要になりますが、これは交代とは別の手続きとして扱われます。
登記の申請は、登記の事由が発生した時から二週間以内に行う必要があります。この期間は、後任者が就任した日など、登記すべき事実が生じた日から数えます。
(2)取締役の変更登記との違い
代表取締役の変更と取締役の変更は、似ているようで登記される内容が異なります。株式会社の登記簿には、取締役については氏名のみが記録され、代表取締役については氏名と住所の両方が記録されます。
また、選び方の仕組みも違います。取締役は株主総会で選任されますが、代表取締役は、取締役会設置会社であれば取締役会の決議で、取締役会を設置していない会社であれば定款の定めに従って、定款の定めがなければ取締役の互選または株主総会の決議で選定されます。つまり、代表取締役の交代を登記するには、まず取締役としての地位がどうなっているのかを確認したうえで、代表取締役をどの機関が選ぶことになっているのかを定款で確かめる、という二段階の確認が必要になります。
つまずきやすいのは、この二段階を見落として株主総会議事録だけを用意してしまうケースです。取締役会設置会社では、株主総会で取締役を選任したうえで、取締役会で代表取締役を選定した記録まで必要になります。
① 登記を怠ると過料の対象になります
役員の変更の登記を二週間以内に申請しなかった場合、代表者個人に対して百万円以下の過料が科される可能性があります。過料は会社ではなく代表者個人に対する制裁であり、裁判所から通知が届く形になります。
さらに、株式会社については、最後に登記があった日から十二年が経過すると、法務大臣による公告を経て解散したものとみなされる制度があります。役員の交代を長期間登記していない会社は、この対象になり得る点にも注意が必要です。
Q. 代表取締役が交代しましたが、取締役としては引き続き会社に残ります。この場合も登記は必要ですか?
A. 必要です。代表取締役の地位から退いて平取締役として残る場合、取締役としての登記は変わりませんが、代表取締役の登記は抹消され、後任者の氏名と住所が新たに登記されます。取締役に変更がないため登記も不要だと考えてしまうケースがありますが、代表取締役の氏名と住所は独立した登記事項ですので、二週間以内の申請が必要です。なお、代表権を失う原因が「辞任」なのか、代表取締役としての任期が満了したことによるのかで、議事録の記載が変わりますので、あらかじめ整理しておくとよいでしょう。
第2章 交代の理由によって変わる必要書類
(1)辞任による交代
代表取締役が自らの意思で退く場合が辞任です。辞任は本人の一方的な意思表示で効力が生じますので、会社の承諾は必要ありません。登記の添付書面としては、本人が作成した辞任届が必要になります。
ここで注意が必要なのは、登記所に印鑑を届け出ている代表取締役、いわゆる会社実印を預かっている代表者が辞任する場合の押印です。この場合、辞任届には登記所に届け出ている印鑑を押すか、市町村に登録した個人の実印を押す必要があります。個人の実印を押したときは、その印鑑についての印鑑証明書を添付します。
(2)任期満了による交代
取締役としての任期が満了し、再任されなかった結果として代表取締役の地位も失う場合です。この場合、辞任届は作成しません。任期満了によって退任したことは、定款に定められた任期と、選任された時期、定時株主総会の開催日から確認できる事実だからです。
そのため、添付書面としては、任期満了と後任者の選任が記録された株主総会議事録と、取締役会設置会社であれば代表取締役を選定した取締役会議事録が中心になります。定款上の任期が登記簿の記録と食い違っている場合には、定款の添付を求められることがあります。
(3)解任による交代
会社の側から代表取締役の地位を奪う場合です。代表取締役としての解任と、取締役そのものの解任は別の手続きであり、どちらを行うかによって決議する機関が変わります。代表取締役としての地位だけを解くのであれば取締役会の決議によりますが、取締役の地位そのものを解任するのであれば株主総会の決議が必要です。
解任では本人が登記に協力しないことが想定されるため、辞任届のような本人作成の書面は用意できず、議事録の記載によって解任の事実を明らかにすることになります。なお、正当な理由なく任期途中で解任された役員から損害賠償を請求されることがありますので、決議に至る経緯は記録に残しておくとよいでしょう。
(4)死亡による交代
代表取締役が死亡した場合、その時点で役員としての地位は当然に失われます。添付書面としては、死亡の事実を証する書面として、親族から会社に提出された死亡届や、戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなどを用います。
死亡の場合に実務上いちばん問題になるのは、後任を選ぶ会議を開けるかどうかです。取締役が二名で、そのうち代表取締役が死亡したようなケースでは、残った取締役だけで有効に決議できるのか、まず定款と取締役の員数を確認する必要があります。
① 四つのパターンの比較
交代の理由ごとに、退任する側について必要となる主な書面を整理すると、次のようになります。後任者の就任に関する書面は、いずれのパターンでも別途必要です。
| 交代の理由 | 退任する側の主な書面 | 決議する機関 |
| 辞任 | 辞任届(押印のルールに注意) | 後任の選定のみ |
| 任期満了 | 不要(議事録の記載で足りる) | 株主総会および取締役会 |
| 解任 | 不要(議事録の記載で足りる) | 取締役会または株主総会 |
| 死亡 | 死亡届、戸籍謄本など | 後任の選定のみ |
第3章 代表取締役の変更登記の手続きの流れ
(1)定款を確認して選定機関を特定する
最初にすべきことは、定款を開いて、代表取締役をどの機関が選ぶことになっているかを確認することです。取締役会設置会社であれば取締役会ですが、取締役会を設置していない会社では、定款で直接定めている場合、取締役の互選による場合、株主総会で選ぶ場合の三通りがあり、会社によってばらつきがあります。
あわせて、取締役の員数の定めと任期の定めも確認します。交代によって取締役の人数が定款の下限を割り込む場合には、代表取締役の選定より先に、取締役を補充する手続きが必要になります。
(2)後任者を選び、就任の承諾を得る
選定機関で後任の代表取締役を選び、本人から就任の承諾を得ます。就任承諾は書面で受け取るのが基本ですが、選ばれた本人がその場に出席して就任を承諾し、その旨が議事録に記載されている場合には、別途の就任承諾書を添付しなくてもよいとされています。
ただし、後述する印鑑証明書が必要となる場面では、就任承諾書という書面そのものに個人の実印を押す必要がありますので、議事録の記載で代える方法は使えません。誰が新たに就任するのかによって、書面の作り方が変わる点に注意が必要です。
(3)添付書面をそろえる
議事録、就任承諾書、辞任届などの書面に加えて、株主総会の決議を要する場合には株主リストが必要になります。株主リストは、議決権数の上位十名または議決権割合が三分の二に達するまでの株主について、氏名または名称、住所、株式数、議決権数などを記載し、代表者が証明する書面です。
印鑑証明書や住民票記載事項証明書には有効期限がありますので、会議の日程が固まってから取得すると手戻りが少なくなります。
(4)法務局に申請する
申請先は、本店の所在地を管轄する法務局です。窓口、郵送、オンラインのいずれでも申請できます。申請から完了までの期間は法務局の混雑状況によりますが、おおむね一週間から十日程度を見込んでおくとよいでしょう。
① 申請までのスケジュールの目安
交代の時期が決まっている場合は、逆算して準備を進めると余裕が生まれます。会議の一か月前には定款と任期を確認し、二週間前には後任者に印鑑証明書の取得を依頼し、会議の当日に議事録と就任承諾書に押印を済ませる、という流れであれば、二週間の登記期限に十分間に合います。
特に、後任者が遠方にお住まいの場合や、印鑑登録をこれから行う場合には、書類のやり取りに想定以上の日数がかかります。印鑑登録をしていない方が新たに代表取締役に就任するケースでは、市区町村での印鑑登録から始めることになります。
Q. 代表取締役の交代と本店移転を同じ時期に行う場合、登記はまとめて申請できますか?
A. 同じ法務局が管轄する登記であれば、一件の申請書にまとめて申請することができます。登録免許税は登記の区分ごとに計算されますので、役員変更分と本店移転分の合計額を納めることになります。ただし、本店を管轄外に移転する場合は、移転前の法務局を経由する形になり、申請書の作り方が変わります。順序を誤ると一度取り下げて出し直すことになりますので、複数の登記が重なるときは、事前に申請の組み立てを整理しておくことをおすすめします。
第4章 印鑑証明書と本人確認証明書の実務
(1)就任承諾書に印鑑証明書が必要になる場合
就任承諾書に市町村に登録した印鑑を押し、その印鑑証明書を添付しなければならないのは、次の二つの場合です。一つは、取締役会を設置していない会社において新たに取締役に就任する方について。もう一つは、取締役会設置会社において新たに代表取締役に就任する方についてです。
ここでいう「新たに就任する」には、これまで代表取締役でなかった方が代表取締役になる場合が含まれます。逆に、同じ方が引き続き代表取締役に選ばれる重任の場合には、この印鑑証明書は求められません。
(2)辞任届の押印
登記所に印鑑を届け出ている取締役が辞任する場合、辞任届には登記所に届け出ている印鑑を押す必要があります。これに代えて市町村に登録した印鑑を押すこともできますが、その場合は当該印鑑についての印鑑証明書を添付します。
会社実印を預かっていない取締役が辞任する場合は、この扱いの対象外です。誰が登記所に印鑑を提出しているのかによって取り扱いが変わりますので、辞任届を作る前に確認しておくと安心です。
(3)取締役会議事録の押印
代表取締役を選定した取締役会議事録には、代表取締役が登記所に提出している印鑑を押すのが原則です。この印鑑が押されていない場合には、出席した取締役および監査役全員が個人の実印を押し、そのすべてについて印鑑証明書を添付することが必要になります。
代表取締役が死亡した場合など、会社実印を押せる方がいない状況では、後者の方法によることになります。出席者全員から印鑑証明書を集める必要がありますので、会議の招集段階から周知しておくと、書類集めがスムーズです。
(4)本人確認証明書
新たに就任する取締役について、市町村長が作成した印鑑証明書を添付しないときは、代わりに本人確認証明書を添付します。具体的には、住民票記載事項証明書、戸籍の附票、運転免許証等のコピー、マイナンバーカードの表面のコピーなどが該当します。運転免許証のコピーによる場合は、裏面もコピーしたうえで、本人が原本と相違ない旨を記載して記名する必要があります。
なお、個人番号の通知カードは本人確認証明書として使用することができません。また、再任の場合には本人確認証明書は不要とされています。
① 費用の目安
取締役一名と代表取締役一名が交代し、資本金の額が一千万円の会社が単独で登記を申請する場合を例にすると、実費の目安は次のようになります。
| 項目 | 金額 |
| 登録免許税(資本金一億円以下の場合) | 10,000円 |
| 印鑑証明書(市区町村、一通あたり) | 300円程度 |
| 住民票記載事項証明書(本人確認証明書として用いる場合) | 300円程度 |
| 登記事項証明書(登記完了後の確認用、一通) | 600円 |
上記はあくまで一般的な目安であり、実際の費用は資本金の額や取得する証明書の通数、市区町村の手数料の定めによって変動します。なお、資本金の額が一億円を超える場合、役員変更の登録免許税は三万円になります。
第5章 代表取締役の変更登記の失敗事例とリスク回避のポイント
(1)後任を決めないまま辞任届だけを受け取っていた事例
取締役が二名の会社で、代表取締役が体調を理由に辞任を申し出て、辞任届を会社に提出しました。会社は辞任届を受け取ってひと安心し、後任を決めないまま数か月が過ぎました。ところが、定款には取締役を二名以上置く旨の定めがあり、辞任によって員数を割り込む状態になっていました。
法律上、退任した役員は、後任者が就任するまでの間、引き続き役員としての権利義務を有するものとされています。この事例では、辞任の登記そのものができず、辞任した本人は登記簿に代表取締役として残り続けました。本人は「もう自分は役員ではない」と考えていたため、後日、金融機関から代表者としての署名を求められて混乱が生じました。後任者を選ぶ株主総会を開いて、ようやく登記が完了しています。
(2)実印を押した辞任届に印鑑証明書を付け忘れて補正になった事例
会社実印を預かっていた代表取締役が辞任し、辞任届に自分の個人実印を押して提出しました。会社側はその辞任届をそのまま添付して登記を申請しましたが、印鑑証明書が付いていないとして法務局から補正の連絡が入りました。
辞任した本人はすでに会社との関係を整理しており、連絡が取りづらい状態になっていたため、印鑑証明書を取り寄せるまでに二週間近くを要しました。登記の完了が遅れた結果、その間に予定していた融資の実行日にも影響が出ています。会社実印を押していれば印鑑証明書は不要でしたので、どちらの印鑑を押すかを決める段階で確認しておけば避けられた遅れでした。
(3)代表取締役の住所変更を放置していた事例
代表取締役が引っ越しをしたものの、住所変更の登記をしないまま数年が経過していました。その後、代表取締役の交代を登記しようとした際に、登記簿上の住所と印鑑証明書の住所が一致しないことが判明し、先に住所変更の登記を入れる必要が生じました。
結果として二件の登記を順に処理することになり、当初の見込みより手続きが長引きました。代表取締役の住所は登記事項ですので、引っ越しをした時点で変更登記が必要になります。
① 交代前に確認しておきたいチェックポイント
交代の話が出た段階で、次の点を順に確認しておくと、手続きが滞りにくくなります。定款上の取締役の員数と任期、代表取締役を選ぶ機関、登記簿上の役員の住所が現住所と一致しているか、後任者が印鑑登録を済ませているか、そして登記所に印鑑を届け出ているのが誰か。この五点が揃っていれば、必要書類はおのずと決まります。
Q. 代表取締役が一人しかいない会社で、その方が急に亡くなりました。会社の口座が凍結されて支払いができません。どうすればよいですか?
A. まずは後任の代表取締役を選ぶ手続きを急ぐことになります。取締役が他にも在任している場合は、定款の定めに従って取締役会または株主総会を開き、後任者を選定します。取締役が代表取締役一名のみだった場合には、株主総会を開いて取締役を選任するところから始める必要があります。株主総会を招集する権限を持つ者がいないときは、裁判所に一時役員の職務を行うべき者の選任を申し立てる方法もあります。金融機関の対応は個別に異なりますので、登記の見通しが立った段階で早めに相談されることをおすすめします。
代表取締役の変更登記は、交代の理由をどう整理するかによって、必要な書面も押印のルールもまったく違うものになります。辞任なのか任期満了なのかを先に確定させ、定款で選定機関を確かめ、誰の印鑑証明書がいるのかを洗い出す。この順番で準備を進めれば、二週間という期限は決して短いものではありません。役員の交代は会社の信用に直結する登記ですので、余裕をもって手続きを終えることで、取引先や金融機関との関係も落ち着いて維持することができます。交代の時期や書類の集め方に迷われた場合は、早い段階で専門家に相談し、無理のないスケジュールで準備を進めることをおすすめします。
関連動画
関連記事


当事務所のご案内
私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






