住宅ローン完済後の抵当権抹消登記|自動では消えない理由と必要書類・費用の実務

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

住宅ローンを完済すると、金融機関から茶封筒で書類一式が届きます。ここで手続きが終わったと思われる方が多いのですが、登記簿に記録された抵当権は、完済しただけでは消えません。法務局が自動で抹消してくれる仕組みはなく、所有者の側から申請する必要があります。しかも、この抹消登記には期限が定められていないため、書類を引き出しにしまったまま何年も経ってしまい、いざ売却や相続の場面で困るというケースが後を絶ちません。本記事では、抵当権抹消登記が必要な理由、金融機関から届く書類の見方、費用の計算、そして放置してしまった場合の対応まで、堺市で不動産登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。

第1章 完済しても抵当権の登記は自動では消えない

(1)抵当権の登記とは何か

住宅ローンを組むとき、金融機関は購入する不動産に抵当権を設定します。返済が滞った場合にその不動産から優先的に回収できるようにするための担保であり、その内容が登記簿に記録されます。登記簿を見れば、誰がいくらの融資を受け、どの金融機関が担保を持っているかが分かる状態になっています。

完済によって、この抵当権が担保している債務そのものは消滅します。しかし、登記簿の記録は債務の消滅に合わせて自動的に書き換わるわけではありません。記録を消すためには、抹消の登記を申請する必要があります。

(2)完済したときに起きること、起きないこと

完済すると、金融機関から抹消登記に必要な書類が送られてきます。金融機関がしてくれるのはここまでで、法務局への申請は所有者の側で行うことになります。この点は法務局も明確に案内しており、住宅ローンを完済した方が自分で申請する手続きとして説明されています。

つまり、書類が届いた時点で手続きの半分が残っている、という理解が正確です。届いた封筒を開けずにしまってしまうと、その半分が手つかずのまま残り続けることになります。

Q. 完済してから何年も経っていますが、今からでも抹消できますか?

A. できます。抵当権の抹消登記には申請期限が定められていませんので、何年経っていても手続き自体は可能です。ただし、年月が経つほど金融機関の合併や商号変更が挟まって必要書類が増えたり、書類そのものを紛失していたりと、手間が増える方向にしか動きません。気づいた時点で着手されることをおすすめします。

① 登記簿を確認する方法

自分の不動産に抵当権が残っているかどうかは、法務局で登記事項証明書を取得すれば確認できます。全国どこの法務局の窓口でも請求でき、オンラインで請求することも可能です。乙区という欄に抵当権の記載が残っていて、そこに下線が引かれていなければ、まだ抹消されていない状態です。

登記事項証明書の手数料は令和7年4月1日から改定されており、窓口や郵送で書面を請求する場合は1通600円です。オンラインで請求して郵送で受け取る場合や、オンラインで請求して窓口で受け取る場合は、これより低い金額が設定されています。確認のために1通取るだけであれば大きな負担にはなりませんので、記憶に頼らず現物を見て判断されることをおすすめします。

② 抹消しないままだと何が困るのか

抵当権が残っていても、住み続けるだけであれば日常生活に支障はありません。困るのは、不動産を動かそうとしたときです。売却するときは買主に抵当権のない状態で引き渡す必要がありますし、その不動産を担保に新たな借入れをしようとすれば、金融機関から先に抹消するよう求められます。相続が発生した場合も、相続人が事情を知らないまま古い抵当権の記録を見つけて不安になる、ということが起こります。いずれも、決済や手続きの日程が決まってから気づくと、そこから慌てて動くことになります。

第2章 金融機関から届く書類の見方

(1)登記識別情報または登記済証

抵当権を設定したときに金融機関に交付された、いわば抵当権の権利証にあたる書類です。設定した時期によって、登記識別情報という形式のものと、登記済証という形式のものがあります。抹消登記ではこの原本を法務局に提出しますので、コピーで代用することはできません。

どちらの形式かは、書類を見れば分かります。登記済証は、書面に法務局の朱色の登記済印が押されているもので、登記識別情報は12桁の英数字が記載され、その部分に目隠しのシールが貼られていたり、折り込んで見えないようにされていたりします。目隠しがされている場合は、申請の直前まではがさずにおく方が安全です。

(2)登記原因証明情報(解除証書・弁済証書)

債務が完済され、抵当権が消滅したことを証明する書類です。金融機関によって解除証書、弁済証書など名称が異なりますが、役割は同じです。受け取ったら、日付や不動産の表示に記載漏れがないかを確認しておくとよいでしょう。法務局も、この点の確認を利用者に呼びかけています。

(3)委任状と会社法人等番号

抵当権の抹消は、本来は不動産の所有者と抵当権者である金融機関が共同で申請するものです。しかし実務では、金融機関が所有者に委任状を渡し、所有者が金融機関の代理人を兼ねる形で申請します。この委任状も金融機関から送られてきますので、日付などの記載漏れがないかを確認します。あわせて、金融機関の会社法人等番号を申請書に記載しますが、これも送られてきた書類に記載されています。

① 書類が届いたらすぐ確認したいこと

封筒を開けたら、書類がそろっているかに加えて、書類に書かれた金融機関の住所と名称が、登記簿に記録されている抵当権者の住所・名称と一致しているかを見ておくと安心です。一致していない場合は、変更の経緯が分かる書類が別途必要になることがあります。この確認は早いほど楽で、何年も経ってから気づくと、当時の資料をたどる作業から始めることになります。

② 書類をなくしてしまった場合

紛失に気づいたら、まず抵当権者である金融機関に連絡します。書類の種類によっては再発行や代わりの書類の作成に応じてもらえますが、対応は金融機関や経過年数によって異なります。この場合も、金融機関そのものが合併や統合を経ていると、どこに問い合わせればよいかを調べるところから始まります。法務局が書類を受け取ったらできるだけ速やかに申請するよう案内しているのは、こうした事情があるためです。

第3章 手続きの流れ(登記簿の確認から申請まで)

(1)登記簿で所有者の住所・氏名を確認する

最初に確認するのは、登記簿に記録されている所有者の住所と氏名が、現在のものと一致しているかどうかです。ここが一致していないと、抵当権抹消の登記を申請することができません。ローンを組んだ後に引っ越していたり、結婚などで氏名が変わっていたりする場合は、この段階で判明します。

(2)住所や氏名が変わっている場合は先に変更登記をする

一致していない場合は、先に登記名義人の住所(氏名)変更の登記をしてから、抵当権の抹消を申請します。なお、令和8年4月1日からは、住所や氏名が変わった場合の変更登記そのものが義務化されており、変更の日から2年以内に申請することとされています。抵当権抹消のついでに対応するというより、いずれ必要になる手続きをこの機会にまとめて済ませる、という位置づけになります。

(3)申請書を作成する

申請書には、登記の目的、登記原因とその日付、権利者である所有者、義務者である金融機関、添付情報、不動産の表示などを記載します。法務局のウェブサイトに記載例が公開されていますので、それに沿って作成する形になります。

(4)法務局に申請する

作成した申請書に必要書類を添えて、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。登録免許税は収入印紙を貼って納めます。窓口に持参するほか、郵送やオンラインでの申請も可能です。

提出先を間違えやすいのは、住んでいる場所と不動産の所在地が違う場合です。管轄は不動産の所在地で決まりますので、実家の不動産を引き継いだ場合などは、自宅の近くの法務局ではなく、その不動産を管轄する法務局に申請することになります。郵送で申請する場合は、書類の返却方法や返信用封筒の要否を、あらかじめ管轄の法務局に確認しておくと二度手間になりません。

① 実務スケジュールの目安

書類がそろっていて、住所や氏名の変更もない場合、申請から完了までは法務局の混み具合にもよりますが、おおむね1週間から2週間程度をみておくとよいでしょう。住所変更登記を先に入れる場合や、金融機関の変更の経緯を示す書類を取り寄せる場合は、その分の日数が加わります。

Q. 所有者の住所が変わっている場合、抵当権抹消と一緒に申請できますか?

A. 同じ日にまとめて申請することはできますが、住所変更の登記と抵当権抹消の登記は別々の申請として扱われ、それぞれに登録免許税がかかります。順番としては住所変更が先で、その登記がされたうえで抹消の登記がされる形になります。1回の来庁で済ませたい場合は、両方の申請書と必要書類を一緒に持参するとよいでしょう。

第4章 費用の計算と不動産の個数

(1)登録免許税の考え方

抵当権抹消の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。土地1筆と建物1棟であれば合計2個となり、2,000円になります。融資額や不動産の評価額とは関係なく、あくまで個数で決まる点が特徴です。

(2)不動産の個数の数え方

ここでいう個数は、感覚的な「うちは一軒家だから1つ」ではなく、登記簿上の単位で数えます。一戸建てでも、敷地が2筆に分かれていれば土地は2個と数えますので、建物と合わせて3個になります。登記事項証明書を見て、土地と建物がそれぞれいくつあるかを数えるのが確実です。

(3)マンションの場合

マンションでは、専有部分の建物のほかに、敷地の権利が複数の土地にまたがっていることがあります。この場合は敷地の個数分が加算されますので、一戸建てより金額が大きくなることがあります。登記事項証明書の敷地権の表示欄を見れば、いくつの土地が敷地になっているかを確認できます。

① 費用の目安

土地1筆と建物1棟に設定された抵当権を抹消し、事前確認のために登記事項証明書を1通取得する場合の費用を整理すると、次のようになります。

登録免許税(不動産1個につき1,000円/土地1筆・建物1棟) 2,000円
登記事項証明書(書面請求・1通) 600円
合計 2,600円

上記はあくまで一般的な目安であり、実際の登録免許税は不動産の個数によって変わります。マンションの場合は敷地権の個数分が加算されます。

② 不動産が20個以上ある場合

不動産の数が多い場合には上限が設けられており、20個以上の不動産について1件の申請でまとめて抹消する場合は、申請1件につき2万円となります。田畑や山林を多く所有している場合など、個数が積み上がるケースでは、この上限が効いてきます。

第5章 放置してしまった場合とつまずきやすいポイント

(1)金融機関が合併・商号変更していた事例

完済から十数年が経ち、いざ抹消しようとしたときに、当時の金融機関が合併して名前が変わっていた、というケースです。登記簿に記録されている抵当権者の名称と、現在の金融機関の名称が一致しないため、その間の変更の経緯が分かる書類を用意する必要が出てきます。金融機関側で対応してもらえることが多いものの、問い合わせ先を探すところから始まるため、完済直後に手続きしていれば不要だった時間がかかります。

(2)所有者が亡くなってから気づいた事例

抵当権を抹消しないまま所有者が亡くなり、相続の場面で初めて古い抵当権に気づくというケースもあります。この場合、相続登記と抵当権抹消の両方を整理することになり、必要書類も相続関係を示すものが加わって一気に増えます。相続人が金融機関からの書類の所在を知らないことも多く、探すところから始まることになります。ご自身が完済された不動産については、書類をどこに保管しているかをご家族と共有しておくだけでも、将来の負担がかなり変わります。

また、相続が絡むと、抵当権を抹消する前提として相続登記を済ませておく必要が出てくる場面もあります。相続登記自体も令和6年4月1日から義務化されていますので、古い抵当権が残っている不動産を相続した場合は、相続登記と抹消登記をひとまとめの課題として整理しておく方が、結果的に手戻りが少なくなります。

(3)明治・大正期の古い抵当権が残っていた事例

相続した土地の登記簿を取ってみたら、明治や大正の年号で個人名義の抵当権が残っていた、ということがあります。抵当権者が誰なのかも分からず、共同で申請することができないという状態です。このような場合には、債権の元本・利息・遅延損害金の全額に相当する金額を供託したうえで、供託したことを証する書面を添えて、所有者が単独で抹消を申請できる制度が不動産登記法に定められています。ただし要件の確認や供託の手続きが必要になりますので、この段階に至った場合は専門家に相談された方が早く進みます。

① 完済後に確認しておきたいチェックポイント

整理すると、確認しておきたいのは次の4点です。金融機関から届いた書類がすべてそろっているか、書類の金融機関名が登記簿の記載と一致しているか、登記簿上の自分の住所・氏名が現在のものと一致しているか、そして対象となる不動産が何個あるか。この4点を書類が届いた時点で確認しておけば、手続きはほとんど滞りません。

Q. 抵当権者だった会社がもう存在しない場合はどうなりますか?

A. 合併によって別の金融機関に引き継がれている場合は、その承継先が手続きに応じてくれますので、まずは承継関係を調べることになります。承継先がなく、抵当権者の所在が分からない場合には、供託をしたうえで所有者が単独で抹消を申請する方法があります。いずれにしても登記簿と当時の資料をたどる作業が必要になりますので、登記事項証明書を取得したうえでご相談いただくと話が早く進みます。

抵当権の抹消登記は、書類がそろってさえいれば、費用も日数もそれほどかからない手続きです。それにもかかわらず面倒な手続きになってしまうのは、期限がないために後回しにされ、その間に金融機関の名称が変わったり、書類が見当たらなくなったり、相続が発生したりするからです。完済して書類が届いたら、その封筒を開けて中身を確認するところまでを一区切りにしておけば、あとの手続きは自然に進みます。書類の内容に見慣れない記載があったり、登記簿と一致しない点が見つかったりした場合は、早い段階で専門家に相談し、必要な書類を整えてから申請することをおすすめします。

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1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。

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