大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
特例有限会社の取締役が引っ越しをされたとき、変更の登記が必要になることをご存じない経営者の方は少なくありません。株式会社では取締役の住所は登記されないため、株式会社の常識をそのまま当てはめてしまい、何年も前の住所が登記簿に残っているというケースをよく目にします。特例有限会社は取締役に任期がなく、登記をする機会そのものが少ないため、住所の変更だけが取り残されやすいという事情もあります。本記事では、特例有限会社と株式会社とで登記事項がどう違うのか、住所が変わったときに何をいつまでにしなければならないのか、代表取締役等住所非表示措置が使えるのかどうか、そして登記を放置したことで実際に起きた事例まで、堺市で商業登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。
第1章 特例有限会社の登記事項は株式会社と逆になっています
(1)特例有限会社とはどのような会社か
特例有限会社とは、会社法が施行される前に有限会社として設立され、会社法の施行後もそのまま有限会社の商号を使い続けている会社のことです。制度としては株式会社の一種として扱われますが、旧来の有限会社の性質を残すため、いくつもの特則が設けられています。取締役に任期がないこと、決算公告が不要であること、株主総会の決議要件が異なることなどが代表例です。
堺市内でも、昭和から続く製造業や建設業の会社が、有限会社のまま事業を続けておられるのをよく拝見します。特則が多いぶん、株式会社向けの情報をそのまま参考にすると食い違いが生じる点に注意が必要です。
(2)取締役は氏名と住所、代表取締役は氏名だけ
特例有限会社の役員に関する登記事項は、次のとおりです。取締役については氏名および住所、代表取締役については氏名のみ、監査役については氏名および住所が登記されます。
ここが株式会社とちょうど逆になっています。株式会社では、取締役は氏名のみが登記され、住所は登記されません。住所が登記されるのは代表取締役だけです。特例有限会社では、代表権のない取締役であっても住所が登記簿に記録され、代表取締役については住所ではなく氏名が記録される、という構造になっています。
なお、代表取締役の氏名が登記されるのは、取締役が二人以上いて、会社を代表しない取締役がいる場合に限られます。
Q. 取締役が1人だけの特例有限会社の場合、登記簿はどうなっていますか?
A. 取締役が1人の場合は、その方が当然に会社を代表することになるため、代表取締役としての登記はされません。登記簿には取締役として氏名と住所だけが記録され、それによって会社を代表すべき者が公示されます。この状態でその取締役が引っ越しをすると、登記簿上の唯一の住所の記載が現況と合わなくなりますので、変更登記が必要です。登記簿を見て代表取締役の欄がないことに戸惑われる方がいらっしゃいますが、誤りではありません。
① 株式会社との違いを整理すると
| 役職 | 特例有限会社 | 株式会社 |
| 取締役 | 氏名および住所 | 氏名のみ |
| 代表取締役 | 氏名のみ(代表しない取締役がいる場合) | 氏名および住所 |
| 監査役 | 氏名および住所 | 氏名のみ |
第2章 住所が変わったときに必要になる登記
(1)取締役全員が対象になります
特例有限会社では取締役の住所が登記事項ですので、代表権の有無にかかわらず、取締役の誰かが引っ越しをすれば変更の登記が必要になります。株式会社であれば、代表取締役以外の取締役が引っ越しをしても登記は不要ですが、特例有限会社では同じようにはいきません。
実務でよくあるのは、代表者のご子息やご親族が取締役として登記されており、その方が結婚や転勤で転居したまま登記が放置されている、というケースです。会社の経営には直接関わっていない取締役ほど、住所の変更が会社に伝わらず、登記の必要にも気づかれにくくなります。
(2)住民票を移していない場合の扱い
登記される住所は、住民票上の住所を基準に判断するのが実務です。実際の生活の本拠が移っていても住民票を移していない場合、まずは住民票の異動を済ませたうえで、その日付を変更の年月日として登記することになります。逆に、住民票だけを先に移していて実際の居住が後になる場合も、登記の実務では住民票の記載を前提に進めるのが一般的です。
(3)代表取締役等住所非表示措置は使えません
2024年10月1日から、登記簿に記録される代表取締役等の住所を最小行政区画までの表示にとどめることができる、代表取締役等住所非表示措置が始まりました。プライバシーへの配慮から設けられた制度で、申出が認められると、市区町村までしか登記簿に表示されなくなります。
この措置の対象は、株式会社の代表取締役、代表執行役または代表清算人です。そして法務省の通達では、この株式会社から特例有限会社は除かれることが明示されています。つまり、特例有限会社の取締役の住所については、この非表示の措置を利用することができません。
特例有限会社は取締役全員の住所が登記されるという点で、株式会社よりも公示される情報が多いにもかかわらず、非表示措置は使えないという状態になっています。住所を登記簿に出したくないという理由で対応を検討される場合、選択肢としては株式会社への商号変更を行ったうえで措置の申出をする、という道筋になります。
① 変更登記を忘れやすい典型的な場面
取締役が施設に入所して住民票を移したとき、相続で取得した実家に転居したとき、会社の登記簿に載っている取締役が高齢で家族の家に同居することになったとき。いずれも会社の業務とは無関係に生じる出来事のため、登記の話まで結びつきにくい場面です。年に一度、決算の時期などに登記事項証明書を取り寄せて、記載内容と現況を突き合わせておくとよいでしょう。
第3章 手続きの流れと費用
(1)新しい住所と異動日を確認する
まず、住所が変わった取締役の住民票の写しを取り寄せ、新しい住所の表記と異動の年月日を確認します。登記される住所は住民票の記載どおりの表記になりますので、丁目や番地の書き方も含めて正確に控えておきます。
(2)申請書を作成する
登記の事由は取締役の住所変更、登記すべき事項として、変更後の住所と変更年月日、対象となる取締役の氏名を記載します。変更年月日は住民票上の異動日です。複数の取締役が同時期に転居した場合は、1通の申請書にまとめて記載することができます。
(3)添付書面について
取締役の住所の変更のみを登記する場合、申請書に住民票を添付する必要はありません。法務局が公開している特例有限会社の取締役・監査役の住所移転の記載例でも、添付書類として挙げられているのは、代理人に登記申請を委任した場合の委任状だけです。株主総会や取締役の決定といった会社の意思決定を要する事柄でもありませんので、議事録の添付も不要です。ご自身で申請される場合は、住民票の写しで新しい住所の表記と異動日を確認したうえで、申請書のみを提出することになります。
(4)申請先と申請方法
申請先は、会社の本店所在地を管轄する登記所です。商業・法人登記の管轄は集約が進んでおり、大阪府南部であれば、堺市はもちろん、岸和田市や富田林市に本店を置く会社であっても、申請先は大阪法務局堺支局になります。窓口や郵送のほか、オンラインによる申請も利用できます。
① 期限と登録免許税
登記事項に変更が生じたときは、その変更の時から2週間以内に登記を申請しなければなりません。この期限を守らずに登記を怠った場合、100万円以下の過料に処される可能性があります。費用を整理すると次のようになります。
| 項目 | 金額 |
| 登録免許税(資本金1億円以下の会社、申請1件につき) | 10,000円 |
| 登録免許税(資本金1億円超の会社、申請1件につき) | 30,000円 |
| 住民票の写し(市区町村の手数料、目安) | 300円程度 |
| 登記事項証明書(書面請求1通) | 600円 |
上記はあくまで一般的な目安であり、住民票の手数料は市区町村によって異なります。登録免許税は申請1件ごとの金額ですので、複数の取締役の住所変更を1通の申請書でまとめて申請すれば、税額は1件分で済みます。
Q. 2年前に引っ越した取締役の住所変更を、これから申請しても大丈夫ですか?
A. 期限を過ぎていても登記の申請自体は問題なく受け付けられますので、気づいた時点で速やかに申請することが大切です。過料は登記の申請を受けた登記所からの通知を端緒に裁判所が判断するもので、必ず科されるとは限りませんが、期間が長いほど対象になりやすい傾向があります。放置している間に別の登記が必要になると、住所変更を先に整理しなければ進まないこともありますので、まとめて処理してしまう方が結果的に負担は軽く済みます。
第4章 ほかの手続きとの関係で注意したいこと
(1)会社が不動産を所有している場合
取締役個人の住所変更と、会社が所有する不動産の登記名義人の住所変更は別の手続きです。会社の本店が移転した場合には、不動産登記の側でも登記名義人の住所変更登記が必要になります。この住所等の変更登記は2026年4月1日から申請が義務化されており、変更があった日から2年以内に申請することが求められ、正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象となります。取締役個人の住所変更と混同されやすい部分ですので、会社名義の不動産をお持ちの場合は、あわせて確認しておくとよいでしょう。
(2)許認可や取引先への影響
建設業や産業廃棄物処理業などの許認可では、役員の住所が申請書類の記載事項になっていることがあります。登記簿の住所と許認可の届出内容が食い違っていると、更新の際に指摘を受けたり、変更届の提出を求められたりします。金融機関の融資審査でも、登記事項証明書と個人の本人確認書類の住所が一致しないと、追加の説明を求められることがあります。
(3)任期がないため登記の機会そのものが少ない
特例有限会社の取締役には任期がありません。そのため、株式会社であれば少なくとも数年に一度は役員変更の登記をする機会が訪れるのに対し、特例有限会社では設立以来一度も登記をしていない、ということが起こり得ます。登記所と接点を持つ機会がないぶん、住所の変更や商号の使い方の見直しといった課題が長年放置されやすくなります。
(4)株式会社への商号変更を検討する場合
取締役全員の住所が公示されることを避けたい、金融機関や取引先に対する信用の見え方を変えたいといった理由から、株式会社への商号変更を検討される会社もあります。この場合、特例有限会社の解散の登記と株式会社の設立の登記を同時に行う形になり、登録免許税も住所変更登記とは桁が変わります。住所の非表示だけを目的に判断するのではなく、決算公告の義務が生じることや、取締役の任期が発生することなど、株式会社になった後の負担も含めて検討することが望ましいでしょう。
第5章 失敗事例とリスク回避のポイント
(1)過料の通知が届いてから気づいた事例
取締役3名のうち2名が数年の間に転居していたものの、代表者の方が「登記が必要なのは代表だけ」と理解しておられ、そのまま放置されていたケースです。別件で役員を1名追加する登記を申請したところ、登記官から住所の変更が未登記であることを指摘され、あわせて申請することになりました。その後、裁判所から代表者個人宛てに過料の通知が届き、会社ではなく代表者個人が負担することになりました。過料は会社に科されるものではなく、登記を怠った代表者個人が対象になる点は、意外に知られていません。
(2)住所非表示措置を申し出ようとして断られた事例
取締役の住所がインターネット上のサービスで閲覧できる状態にあることを知り、非表示措置を利用しようとされたケースです。制度の解説を読んで「株式会社が対象」と書かれていたため、特例有限会社も株式会社の一種だから使えるはずだと考えて準備を進められましたが、特例有限会社は対象から除かれているため、申出をすることができませんでした。準備した書類が無駄になったうえ、対応の見通しを立て直すことになりました。制度の対象から特例有限会社が除外されている旨は通達に明示されていますので、事前の確認が欠かせません。
(3)住所の表記が住民票と違っていて補正になった事例
取締役の住所を、日常使っている略した表記のまま申請書に記載してしまい、住民票の記載と一致しないとして補正を求められたケースです。番地の枝番の書き方や、マンション名と部屋番号を記載するかどうかで食い違いが生じます。すでに登記されている他の役員の住所の表記と揃っていないと、後日、同一人物かどうかの判断が難しくなることもあります。住民票の写しを手元に置き、そのとおりに書き写すのが確実です。
① 定期的に確認しておきたいこと
年に一度、会社の登記事項証明書を取り寄せて、取締役と監査役の氏名と住所が現況と一致しているか、代表取締役の登記の有無が現在の体制と合っているかを確認しておくことをおすすめします。あわせて、会社名義の不動産があれば、その登記名義人の住所も確認しておくと安心です。確認そのものは1通600円の証明書で足りますので、決算の時期に合わせて習慣化しておくと、登記の漏れはほとんど防げます。
Q. 取締役の住所変更と、会社の本店移転を同時に申請できますか?
A. 同じ管轄区域内での本店移転であれば、取締役の住所変更とあわせて1通の申請書で申請することができます。登録免許税は登記の種類ごとに定められていますので、本店移転の分と役員に関する変更の分がそれぞれ必要になります。管轄区域の外へ本店を移転する場合は、旧本店を管轄する登記所を経由して申請する特別な流れになり、印鑑カードの再発行も生じます。日程が重なりそうなときは、どの登記をどちらの管轄で処理するのかを先に整理しておくと、手戻りを防げます。
特例有限会社の取締役の住所変更登記は、手続きそのものは申請書1枚で完結する簡単な部類の登記です。それにもかかわらず放置されやすいのは、株式会社では不要な登記であることと、任期がないために登記所と接する機会が少ないという、特例有限会社特有の事情が重なっているためです。取締役全員の住所が登記事項であること、変更から2週間以内という期限があること、そして代表取締役等住所非表示措置は利用できないこと。この3点を押さえておけば、慌てる場面はほとんどなくなります。長く続いてこられた会社ほど登記簿には歴史が刻まれていますので、この機会に現況と照らし合わせて整えておくことは、事業を次の世代へ引き継ぐうえでも意味のある作業になります。登記簿の記載と現在の体制が合っているか不安がある場合は、早めに専門家に相談し、必要な登記を洗い出したうえで進めることをおすすめします。
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私が記事を書きました。
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司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






