相続した不動産に古い抵当権が残っていたら|休眠担保権の抹消と前提となる相続登記の実務

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

相続した実家の登記簿を取り寄せてみたら、何十年も前に設定された抵当権がそのまま残っていた、というご相談は少なくありません。借入金の返済はとうに終わっているはずなのに、なぜ登記だけが残っているのか、誰にどう連絡すれば消えるのかが分からず、そこで手続きが止まってしまうことがよくあります。抵当権者が今も存続する金融機関なのか、すでに合併で名前が変わっているのか、それとも個人で連絡先も分からないのかによって、必要な書類も費用もまったく変わってきます。本記事では、残ったままの抵当権の見分け方から、抹消の前提として必要になる相続登記や住所変更登記、抵当権者の所在が分からない場合の休眠担保権の抹消、そして放置したことで実際に困った事例まで、堺市で相続登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。

第1章 登記簿に残ったままの抵当権が見つかる場面

(1)返済が終わっても登記は自動では消えない

抵当権は、借入金の返済が完了した時点で、権利としては消滅します。ところが、登記簿に記録された抵当権の登記は、返済が終わったからといって法務局が自動的に消してくれるわけではありません。抹消の登記を申請して初めて、登記簿から消えます。

この申請は、不動産の所有者と抵当権者である金融機関が共同で行うのが原則です。実務では、完済のタイミングで金融機関から解除証書や委任状などの一式が渡され、それを持って所有者が法務局に申請するか、司法書士に依頼して申請する流れになります。ここで書類を受け取ったまま申請せずに引き出しにしまってしまうと、権利としては消えているのに登記だけが何十年も残り続けることになります。

(2)相続の場面で初めて発覚することが多い理由

抵当権の登記が残っていても、住み続けている限りは日常生活で困ることがありません。固定資産税の通知にも記載されませんし、登記簿をわざわざ取り寄せる機会もないためです。

ところが相続が発生すると、相続登記のために登記事項証明書を取得します。このときに初めて、両親や祖父母の代に設定された抵当権が残っていることが分かります。堺市内でも、昭和の時代に設定された住宅金融公庫や信用組合の抵当権が、そのまま残っている登記簿を目にすることがあります。設定から数十年が経過していると、当時の事情を知る人がすでに亡くなっているため、返済が終わったのかどうかの確認から始めなければならないこともあります。

Q. 抵当権の登記が残っていると、固定資産税や不動産の評価額に影響しますか?

A. 固定資産税の額や、相続税を計算する際の不動産の評価額には影響しません。抵当権の登記は、あくまでその不動産に担保権が設定されていることを公示するものだからです。ただし、金融機関から新たに融資を受けて別の抵当権を設定する場面や、不動産を売却する場面では、古い抵当権が残っていることが問題になります。日常では影響がないぶん発見が遅れやすいので、相続の手続きに入った段階で登記簿を確認しておくことをおすすめします。

① 登記簿を確認しておきたいタイミング

抵当権の有無を確認するには、法務局で登記事項証明書を取得するのが確実です。窓口や郵送での請求は1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取る場合は520円、オンラインで請求して登記所の窓口で受け取る場合は490円です。不動産の登記事項証明書は、その不動産の所在地を管轄する登記所以外でも請求できるため、堺市内の法務局で他府県の不動産の証明書を取ることもできます。相続が発生した直後、あるいは親が元気なうちに一度取り寄せておくと、慌てずに済みます。

第2章 残っている抵当権を3つのパターンに仕分ける

(1)抵当権者の金融機関が今も存在している場合

登記簿に記載された抵当権者が、現在も同じ商号で営業している金融機関であれば、話は比較的単純です。支店に連絡して事情を説明すれば、完済の記録を確認したうえで、解除証書や委任状などの抹消に必要な書類を用意してもらえることが多いです。

ただし、完済から相当の年数が経っている場合、金融機関側にも記録が残っていないことがあります。その場合は、抵当権が消滅していることを示す資料をこちらで探すよう求められることもあります。

(2)金融機関が合併・商号変更・本店移転している場合

登記簿上の抵当権者が、現在は別の名前になっているケースです。信用金庫や信用組合の再編、都市銀行の合併など、登記簿には当時の名称がそのまま残っています。

この場合、現在の金融機関に連絡して手続きを進めることになりますが、抹消登記の前提として抵当権者側の商号変更や本店移転の登記をする必要はありません。変更の経緯が分かる登記事項証明書を添付するか、申請書に会社法人等番号を記載することで足ります。ここを誤解して「先に相手方の変更登記が必要では」と考えてしまい、手続きが止まってしまう方がいらっしゃいます。

注意が必要なのは合併の場合です。抵当権が消滅した後に合併があったのであれば、前提としての抵当権移転登記は不要で、承継した会社を登記義務者として申請できます。一方、合併があった後に抵当権が消滅したのであれば、前提として合併による抵当権移転の登記が必要になります。どちらに当たるかは、完済日と合併日の前後関係で決まります。

(3)抵当権者が個人で、所在が分からない場合

戦前や昭和初期に設定された抵当権では、抵当権者が個人名で記載されていることがあります。すでに亡くなっているうえ、相続人がどこにいるのかも分からない、というケースです。この場合は共同で申請することができないため、第4章で解説する休眠担保権の抹消という方法を検討することになります。

① 3つのパターンの見分け方

登記事項証明書の抵当権の欄には、設定の日付、債権額、債務者、抵当権者が記録されています。この記載から、どのパターンに当たるかをおおまかに判断できます。

登記簿の記載 とるべき対応
現存する金融機関の名称 支店に連絡し、抹消書類の交付を受ける
現在は存在しない金融機関の名称 承継先を調べ、会社法人等番号または登記事項証明書で経緯をつなぐ
個人名で、住所も古い 相続人を調査するか、休眠担保権の抹消を検討する

② 最初に取り寄せる書類

まずは対象不動産の登記事項証明書を取得します。抵当権者が法人であれば、その法人の登記事項証明書を取得して、現在の商号と本店を確認します。抵当権が設定された当時の権利証や、金融機関から届いた完済の通知が自宅に残っていないかも、あわせて探しておくとよいでしょう。古い書類が一枚見つかるだけで、その後の調査が大きく短縮されることがあります。

第3章 抹消の前提として必要になる登記

(1)所有者がすでに亡くなっている場合

抵当権が消滅した時点より前に不動産の所有者が亡くなっていた場合は、前提として相続による所有権移転登記を済ませてから、抵当権抹消登記を申請することになります。

これに対して、抵当権が消滅した後に所有者が亡くなった場合は、相続登記をせずに相続人から抹消登記を申請することもできます。ただしこの場合も、申請する方が相続人であることを証する戸籍証明書などの添付が必要です。相続登記そのものは2024年4月から義務化されており、原則として相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に申請しなければならないため、いずれにしても相続登記は避けて通れません。

(2)所有者の住所が登記簿と違う場合

実務でつまずきやすいのがここです。登記簿上の所有者の住所が、引っ越しなどによって現在の住所と異なっている場合、抵当権抹消登記の前提として、所有権登記名義人の住所変更登記をしておく必要があります。住所が変わったことを証する書面を抹消登記の申請書に添付すれば足りる、というわけにはいきません。

この住所変更登記についても、2026年4月1日から申請が義務化されています。住所や氏名に変更があったときは、変更日から2年以内に申請することが求められ、正当な理由なく怠った場合には5万円以下の過料の対象となります。施行日より前に住所を変更していて、まだ変更登記をしていない場合も義務化の対象で、2028年3月31日までに登記をする必要があります。

(3)抵当権者側の変更は前提登記が不要

第2章でも触れましたが、抵当権者の名称や住所が登記簿上のものと異なっていても、抹消の前提として抵当権者の表示変更登記をする必要はありません。所有者側は前提登記が必要で、抵当権者側は不要という非対称な扱いになっているため、混同しないようにしておきたいところです。

(4)申請の順番と費用の目安

所有者が亡くなっており、かつ生前に住所を移していた土地1個・建物1個のケースで、必要な登記と登録免許税を整理すると次のようになります。相続登記の登録免許税は固定資産税評価額を基準に計算するため、ここでは評価額の合計を1,000万円と仮定しています。

項目 金額
相続による所有権移転登記(評価額の0.4%) 40,000円
所有権登記名義人住所変更登記(不動産1個につき1,000円) 2,000円
抵当権抹消登記(不動産1個につき1,000円) 2,000円
登記事項証明書(書面請求1通600円、2通) 1,200円
合計の目安 45,200円程度

抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1個につき1,000円ですが、同一の申請書で20個以上の不動産について申請する場合は、申請1件につき20,000円が上限となります。上記はあくまで一般的な目安であり、実際の費用は不動産の個数や評価額、戸籍の取得通数によって変動します。

Q. 相続登記と抵当権抹消登記は、同じ日にまとめて申請できますか?

A. 同じ日に連件で申請することができます。相続登記を1件目、抵当権抹消登記を2件目として、順番を指定して同時に法務局へ提出する方法です。1件目の登記が完了していなくても、続けて処理してもらえるため、二度手間になりません。ただし、1件目に補正が必要になると2件目も止まりますので、戸籍の範囲や評価証明書の年度など、相続登記側の準備を先に固めておくことが大切です。

第4章 休眠担保権の抹消という選択肢

(1)単独で申請できる場合の要件

抵当権者の所在が分からず、共同で申請することができない場合には、不動産の所有者が単独で抹消登記を申請できる特則が設けられています。これが休眠担保権の抹消と呼ばれる手続きです。

この方法を使うには、被担保債権の弁済期から20年が経過していること、そしてその20年が経過した後に、債権額と利息、損害金の全額に相当する金銭を供託することが必要です。弁済期がいつかは登記簿の記載から判断しますが、記載がない場合には別途の資料が必要になります。

(2)供託する金額と登記原因の書き方

供託すべき金額は、元本である債権額だけではありません。利息と遅延損害金を加えた全額です。設定から長い年月が経っている場合、利息の計算だけで相当な作業になりますが、登記簿に記載された利率をもとに計算していくことになります。もっとも、明治や大正の時代に設定された抵当権では債権額そのものが数十円ということもあり、計算結果が数千円程度に収まることも珍しくありません。

抹消登記の登記原因は「年月日弁済」とし、その日付は供託金が払い込まれた日、つまり供託の効力が生じた日を記載します。

(3)抵当権者の相続登記は不要

この手続きを使う場合、抵当権者がすでに亡くなっていても、相続による抵当権移転の登記をする必要はありません。相続人を全員調べ上げて連絡を取る、という作業を省けるのが、この制度の実務上の利点です。

① この方法が使えないケース

抵当権者の所在が判明している場合には、この手続きは使えません。また、弁済期から20年が経過していない場合や、弁済期が特定できない場合も同様です。抵当権者が現存する金融機関であるにもかかわらず連絡がつかない、というだけでは要件を満たしませんので、まずは第2章の仕分けを丁寧に行うことが先決です。

第5章 放置した場合の失敗事例とリスク回避のポイント

(1)売却の決済直前に発覚した事例

相続した実家を売却することになり、買主との売買契約も締結し、決済日も決まった段階で、登記簿に昭和40年代の抵当権が残っていることが判明したケースがあります。買主側の金融機関から「抵当権が残っている物件には融資できない」と指摘され、決済日を1か月以上延期することになりました。抵当権者であった信用組合はすでに他の金融機関に吸収されており、承継先を突き止めて書類を用意してもらうまでに時間がかかったためです。売主である相続人の方は、延期にともなう仮住まいの費用を負担することになりました。

(2)遺産分割協議のやり直しになった事例

相続人の間で「実家は長男が取得し、代わりに預貯金は次男が多めに受け取る」という内容で遺産分割協議がまとまったものの、後から実家に抵当権が残っていることが分かったケースです。次男の方が「担保が付いている不動産だと知っていれば、分け方の話は変わっていた」と主張し、実際には借入金は完済済みで抹消するだけの状態だったにもかかわらず、協議のやり直しを求められました。最終的には抹消登記を完了させ、登記簿がきれいになったことを確認したうえで改めて協議書を作り直しましたが、相続人の間にわだかまりが残る結果になりました。

(3)相続人が増えて連絡が取れなくなった事例

抵当権の抹消を「そのうちやろう」と先延ばしにしている間に、不動産を相続するはずだった方が亡くなり、次の世代へと相続が重なったケースです。相続登記が済んでいなかったため、抹消登記の前提として二代分の相続登記が必要になり、関係する相続人が10人を超えました。すでに交流のない親族も含まれており、全員から書類を集めるまでに半年以上を要しました。抵当権の抹消そのものは数千円で済む手続きでも、前提となる部分が膨らむと、時間も労力も一気に増えていきます。

① 先延ばしにしないためのチェックポイント

相続が発生したら、遺産分割の話し合いと並行して、対象不動産の登記事項証明書を取得しておくことをおすすめします。確認したいのは、所有者として記録されている方の氏名と住所が現況と一致しているか、乙区に抹消されていない抵当権が残っていないか、抵当権者は現存する法人か、という3点です。この3点が分かるだけで、必要な手続きの全体像と、おおよその期間の見通しが立ちます。

Q. 抵当権抹消登記に申請期限はありますか。過料の対象になりますか?

A. 抵当権抹消登記そのものには、相続登記や住所変更登記のような申請義務と過料の定めは設けられていません。この点だけを見れば急ぐ必要はないように思えます。しかし、放置している間に金融機関の統廃合が進んだり、相続が重なって関係者が増えたりすることで、手続きの難易度は確実に上がっていきます。ペナルティがないからこそ、書類が手元にそろっているうちに済ませておくのが現実的です。

相続した不動産に古い抵当権が残っていた場合、鍵になるのは抵当権そのものよりも、前提として何を先に登記しなければならないかを正しく見極めることです。所有者が亡くなっているのか、住所が変わっているのか、抵当権者が今も存在するのか。この3つを順に確認していけば、進むべき道筋は自然と定まります。相続登記も住所変更登記も申請が義務化され、期限が定められた今、抵当権の抹消をきっかけに登記簿全体を現況に合わせて整理しておくことは、次の世代に不動産を引き継ぐうえで大きな意味を持ちます。抵当権者の所在が分からない、前提となる相続の範囲が見えないといった不安がある場合は、早い段階で専門家に相談し、必要な手続きの順番を整理してから動き出すことをおすすめします。

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司法書士・行政書士/植田麻友

 

1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。

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