大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後に必要となる葬儀や納骨、行政への届出、住まいの片づけといった事務を、生前のうちに信頼できる相手へ託しておく契約です。遺言さえあれば足りると考えられがちですが、遺言で法的な効力を持たせられるのは相続財産の分け方など法律で定められた事項に限られ、葬儀の方法や施設利用料の精算までは指定できません。本記事では、死後事務委任契約で定められること・定めても効力が生じないこと、公正証書にするまでの流れと費用、契約後に実際に動くことになる期限、そして実務でよくある失敗事例まで、堺市で相続・遺言のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。
第1章 死後事務委任契約の基本と遺言・任意後見との違い
(1)死後事務委任契約とは何か
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった後に必要となる事務の処理を、生前のうちに特定の相手へ委託しておく契約です。葬儀や納骨、親族への連絡、市区町村への届出、病院や施設への未払金の精算、各種契約の解約、遺品の整理などが対象になります。
これは民法上の委任契約の一種で、委任は委任者が亡くなると終了するのが原則です。もっとも、この原則は当事者の合意で修正できると解されており、平成4年の最高裁判所の判決でも、自分の死後の事務を含む委任契約は、委任者の死亡によっては契約を終了させない旨の合意を含む趣旨のものと判断されています。契約書に、委任者が亡くなっても契約を終了させない旨をはっきり書いておくことが、後の疑義を避ける第一歩になります。
(2)遺言でできること、死後事務委任契約でできること
遺言で法的な効力が認められるのは、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定、認知といった法律で定められた事項に限られます。葬儀は家族葬にしてほしい、納骨は特定のお寺にお願いしたい、といった希望は、遺言に書いても付言事項にとどまり、相続人を法的に拘束する力はありません。
これに対して死後事務委任契約は、法定の遺言事項を除いた死後の事務について、公序良俗に反しない限り幅広く定めることができ、受任者に履行の義務を負わせることができます。逆に、相続財産を誰に承継させるかは遺言でなければ決められません。財産の承継は遺言、事務の処理は死後事務委任契約と役割を分けるのが実務の出発点です。
(3)任意後見契約・財産管理委任契約との関係
任意後見契約は、判断能力が低下したときに備えて生前の財産管理や身上保護を託しておく契約で、財産管理委任契約とともに、亡くなった時点で効力を失います。判断能力の低下から死亡までを任意後見契約が、死亡後の事務を死後事務委任契約が、財産の承継を遺言がカバーする三段構えになり、どれか一つが欠けるとその期間だけ担い手が不在になります。任意後見契約は公正証書で作成することが法律上必要とされているため、同じ機会に三つを併せて作成される方が多いです。
① 死後事務委任契約を検討すべき典型的な場面
おひとり暮らしで身近に頼れる親族がいない場合、お子様がいないご夫婦で配偶者に先立たれた場合、相続人はいるものの長年疎遠で連絡先も分からない場合、相続人が遠方や海外にお住まいですぐには動けない場合などが典型です。施設への入居にあたって死亡後の対応を確認され、そこで初めて検討される方も増えています。
② 契約がないまま亡くなった場合に起きること
葬儀の手配、賃貸住宅の明渡し、施設利用料の精算は、誰かが動かなければ止まったままになります。相続人がいても、相続放棄を検討している段階では財産に手を付けることをためらわれますし、相続人がどなたもいない場合は、家庭裁判所に相続財産清算人を選任してもらうまで進まないこともあります。その間も賃料や利用料は発生し続ける点に注意が必要です。
Q. 家族がいる場合でも死後事務委任契約は必要ですか?
A. 原則として、配偶者やお子様が身近にいらっしゃる場合は、ご家族が事実上の死後事務を担われることが多く、契約がなくても手続きは進みます。ただし、ご家族が遠方にお住まいの場合や、ご家族自身が高齢で動きにくい場合、葬儀の方法や納骨先に具体的なご希望がある場合は、契約で内容を確定しておくとご家族の負担と迷いを減らせます。ご家族の有無ではなく、実際に誰が動けるのかで判断されるとよいでしょう。
第2章 契約で定める事務の範囲と、定めても効力が生じない事項
(1)葬儀・火葬・納骨に関する事務
火葬や埋葬を行うには市区町村長の許可が必要で、火葬場の管理者は火葬許可証を受け取った後でなければ火葬を行えないと定められています。また、埋葬も火葬も、死亡または死産の後24時間を経過した後でなければ行えません。実際には、死亡届の提出と火葬許可の申請を同じ窓口で済ませ、そのうえで葬儀社と日程を調整する流れになります。
契約書には、葬儀の形式(一般葬・家族葬・直葬など)、規模の目安、依頼する葬儀社、誰に連絡するか、宗派、納骨先の名称までを具体的に書いておきます。本人の希望に沿って葬儀を行うとだけ書かれた契約書では、受任者はその場で判断できず、結局は親族に確認を取ることになります。
(2)行政官庁への届出と各種契約の解約
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡したときはその事実を知った日から3か月以内)に提出する必要があります。ここで見落とされやすいのが、届出をすることができる人が法律で決まっているという点です。法務省の案内では、親族、同居者、家主、地主、家屋管理人、土地管理人等のほか、後見人、保佐人、補助人、任意後見人、任意後見受任者が挙げられています。死後事務委任契約の受任者であるというだけでは、この中に含まれません。そのため、司法書士などの第三者を受任者とする場合は、任意後見契約を併せて締結して任意後見受任者の立場を確保しておく組み立てをとることが多いです。
このほか、健康保険や介護保険の資格に関する手続き、年金の受給停止、公共料金・携帯電話・クレジットカード・各種サブスクリプションの解約も委任事項に入ります。近年はオンラインで完結する契約が多く、解約に必要なアカウント情報が分からずに手続きが止まる例が目立ちますので、契約先の一覧を書き出して受任者と共有しておくことが重要です。
(3)住まいの明渡しと遺品の整理
賃貸住宅にお住まいだった場合、賃借権も相続の対象となり相続人に承継されます。したがって、賃貸借契約の解約や部屋の明渡しは、本来は相続人の権限に属する事柄です。受任者に委ねる場合は、契約書に明確な授権条項を置いたうえで、管理会社や貸主にも契約の存在を事前に伝えておきます。
遺品の整理も同様で、財産的価値のある動産は相続財産にあたります。処分してよいもの(衣類や日用品など)と、相続人に引き渡すもの(貴金属、有価証券、預金通帳、権利証など)を契約書で区別しておかないと、後から相続人と対立する原因になります。
(4)定めても法的な効力が生じない事項
相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈や寄付、認知といった事項は、遺言によらなければ法的な効力が生じません。死後事務委任契約に残った財産を特定の団体に寄付すると書いても、その記載だけで財産を動かすことはできません。むしろ、こうした記載自体が、契約全体が財産を目的としたものではないかという疑いを相続人に抱かせる原因になります。
① 委任事項を書き分けるときの判断基準
判断の軸は、その行為が財産の帰属を動かすものかどうかです。動かすものであれば遺言、動かさない事務の処理であれば死後事務委任契約、と切り分けます。迷いやすいのが費用の支払いに預貯金を充てる場面ですが、預貯金の払戻しは相続人または遺言執行者の権限に属しますので、死後事務の費用は生前に預託金として預けておくか、遺言で手当てしておく必要があります。
第3章 契約書作成の流れと公正証書にするまでの実務ステップ
(1)受任者を決める
最初に決めるのは、誰に託すかです。判断のポイントは、ご自身より長く元気でいられる見込みがあるか、実際に動ける距離にいるか、事務処理と金銭管理を任せられるか、の三点です。ご親族が同時に相続人でもあるときは他の相続人との間で利害が対立しやすく、専門職や法人に託す場合は中立性を確保しやすいという違いがあります。
(2)委任事項を洗い出して優先順位をつける
次に、どこまで託すのかを洗い出します。葬儀と納骨、行政への届出、契約の解約、住まいの明渡し、遺品の整理、ペットの引き渡し先、SNSやメールアカウントの閉鎖など、ご事情によって範囲は大きく変わります。契約先や関係者の一覧を同時に作っておくと、その後の作業が格段に楽になります。契約書に書いた事務も、連絡先が分からなければ着手できません。
(3)費用を見積もり、預託金の取り決めをする
葬儀費用、納骨費用、施設や病院への未払金、遺品整理費用、原状回復費用など、必要となる金額を概算します。受任者は事務の処理に必要な費用の前払いを請求できますので、これを預託金として生前に預けておく方法が一般的です。立て替えて後から相続人に請求する形にすると、相続人が支払いに応じない場合に回収できないおそれがあります。
(4)公証役場で公正証書にする
委任契約は当事者の合意だけで成立するため、公正証書にすることが法律上の要件になっているわけではありません。それでも実務で公正証書によることが一般的なのは、委任者が亡くなった後に効力を発揮する契約である以上、本人の意思で結ばれたことを公証人の関与によって明確にしておく意義が大きいためです。案文を公証役場に事前に送って内容を調整し、作成日に本人と受任者が出向いて署名押印します。公証役場は予約制ですので、案文調整のやり取りも含めると、受任者を決めてから完成まで早くても1か月程度をみておくとよいでしょう。
① 公正証書作成にかかる費用の目安
公証人の手数料は公証人手数料令という政令で決まっており、2025年10月に金額が改定されています。死後事務委任契約は目的の価額を算定できないことが多く、その場合は目的の価額を500万円とみなして計算する扱いになります。この前提で整理すると、以下のようになります。
| 項目 | 金額 |
| 公正証書作成の基本手数料(目的の価額を500万円とみなす場合) | 13,000円 |
| 証書の枚数による加算(横書きで3枚を超える部分1枚につき) | 300円 |
| 正本・謄本の交付手数料(1枚につき) | 300円 |
上記はあくまで一般的な目安であり、実際の費用は契約書の分量や正本・謄本の交付通数によって変動します。任意後見契約や遺言公正証書を併せて作成する場合は、それぞれ別途手数料がかかります。契約内容が固まった段階で公証役場に見積もりを確認しておくと安心です。
Q. 死後事務委任契約は、必ず公正証書にしなければならないのですか?
A. 委任契約は当事者の合意だけで成立しますので、私文書で作成しても契約自体は有効です。ただし、実際に事務を行う場面では、金融機関や賃貸物件の管理会社、葬儀社などから契約書の提示を求められることがあり、公証人が関与した公正証書のほうが受け入れられやすい傾向があります。原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんを疑われるおそれもありません。公正証書にしておくことをおすすめします。
第4章 契約締結後に注意しておきたい期限・届出・関係者対応
(1)亡くなった直後に動く期限
最初に動くのは死亡届です。死亡の事実を知った日から7日以内という期限があり、火葬許可の申請も通常はこのタイミングで行います。死亡後24時間を経過するまでは火葬も埋葬もできませんので、日程はこの制約を前提に組むことになります。受任者が第三者である場合は、病院や施設からの連絡が受任者に届く体制になっているかどうかが、この段階の実効性を左右します。契約を締結したら入院先や入居先に受任者の連絡先を届け出ておき、変更のたびに更新しておくことが大切です。
(2)年金・健康保険などの届出
年金を受給されていた方が亡くなったときは、受給を止める手続きが必要です。日本年金機構にマイナンバーが収録されている方については原則として年金受給権者死亡届を省略できるとされていますが、収録状況によっては届出が必要になります。届出が遅れると年金を受け取りすぎた状態になり、後から返還を求められることがあります。
なお、未支給年金は、生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹その他の3親等内の親族が請求できるもので、第三者である受任者は請求できません。請求できるご親族がいるかを整理し、いる場合は連絡して案内するという役割分担にしておくとよいでしょう。
(3)相続人・親族への連絡と報告
委任者が亡くなると、委任者の地位は相続人に承継されます。そのため受任者は、事務の処理状況や預り金の収支について相続人に報告する義務を負うことになります。実務上は、契約締結の段階で推定相続人に契約の存在と内容を伝えておくことが最も効果的なトラブル予防になります。相続人が後から契約の存在を知る形になると、内容そのものは適切であっても、なぜ知らされていなかったのかという点が争いの火種になりやすいためです。
(4)預託金の管理と精算
預託金は受任者自身の財産と分け、専用の口座で管理して入出金の記録と領収書を保管しておくのが基本です。事務がすべて終わった段階で、かかった費用と報酬を差し引いた残額を相続人に返還し、収支の報告を行います。返還先の相続人が複数いる場合や所在が分からない場合には返還が滞ることがありますので、返還の方法や相続人を確知できない場合の取扱いまで契約書に定めておきます。
第5章 死後事務委任契約の失敗事例とリスク回避のポイント
(1)相続人が契約を知らず、費用の精算でもめた事例
おひとり暮らしの方が知人を受任者として契約を結んでいたものの、そのことを甥や姪に伝えていなかったというケースがあります。葬儀と納骨、遺品整理までを受任者が手配し、後日、相続人である甥に費用の精算を求めたところ、そんな契約は聞いていない、葬儀の規模も遺品整理業者の選定も納得できない、として支払いを拒まれ、立て替えた費用の回収に長期間を要することになりました。防ぐ手段は、生前に預託金を受け取っておくことと、推定相続人に契約の存在を知らせておくことの二つです。
(2)委任事項が抽象的で受任者が動けなかった事例
契約書に葬儀および納骨に関する事務とだけ書かれており、形式も規模も納骨先も定めていなかったため、受任者が判断できず、結局は疎遠だった親族に一つひとつ確認しながら進めることになった、というケースもあります。裁判例では、契約内容が不明確である、実現が困難である、相続人にとって履行の負担が重すぎるといった、契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、相続人からの解除は認められないと判断されています。裏を返せば、内容が不明確な契約は解除を主張される余地を残すということです。
(3)受任者が先に亡くなった場合のリスク
受任者を同年代のご友人にお願いしていたところ、受任者のほうが先に亡くなり、契約が機能しなくなったというケースもあります。受任者が健在でも、判断能力や体力が低下して事務を行えなくなることがあります。対策としては、予備の受任者を契約書に定めておく、法人や専門職に依頼するといった方法が考えられます。契約を結んで終わりにせず、数年ごとに見直しておくことも有効です。
① 死後事務委任契約を検討する際のチェックポイント
受任者はご自身より長く事務を行える見込みがあるか、予備の受任者を定めているか、委任事項は受任者が単独で判断できる程度に具体的か、費用は預託金として手当てされているか、推定相続人に契約の存在を伝えているか、遺言や任意後見契約との内容の食い違いはないか、契約先や連絡先の一覧を受任者と共有しているか。この七点が揃っていれば、実際の場面で止まりにくい契約になります。
Q. 死後事務委任契約を結んでいれば、預貯金の解約も受任者ができますか?
A. 原則としてできません。預貯金は相続財産にあたり、名義人が亡くなった時点で相続人に承継されますので、その払戻しや解約は相続人または遺言執行者が行うことになります。死後事務委任契約は、あくまで葬儀や届出といった事務の処理を託す契約であり、財産の帰属を動かす効力はありません。必要な資金は、生前に預託金として預けておくか、遺言で遺言執行者を指定して手当てしておくことになります。
死後事務委任契約は、財産を誰に渡すかを決める遺言とは目的が異なり、亡くなった後に必要となる一つひとつの事務を、誰がどこまで行えるようにしておくかを決める契約です。委任事項を具体的に書き、費用を預託金として手当てし、推定相続人に契約の存在を伝えておく。この三つが揃っていれば、ご自身の希望はそのとおりに実現され、残されたご家族が判断に迷う場面も大きく減らすことができます。どこまでの備えが必要か迷われている場合は、早い段階で専門家に相談し、遺言や任意後見契約と併せて全体像を整理しておくことをおすすめします。
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私が記事を書きました。
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司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






