法人と個人で不動産を売買する場合の注意点|利益相反取引の承認と議事録・押印の実務ポイント

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

会社が代表取締役から隣の土地を買い取る、あるいは会社名義の建物を社長個人に売る。中小企業では、こうした法人と個人の間の不動産売買が、事業承継や資産の組み替えの場面で持ち上がることがあります。第三者との売買と同じ感覚で契約書を交わしてしまいがちですが、会社と取締役の間の売買は会社法上の利益相反取引にあたり、決められた承認手続きを経ていないと所有権移転登記が受理されません。しかも、承認議事録に押す印鑑や添付する印鑑証明書にも決まりがあり、ここでつまずいて決済日が動く例が少なくありません。本記事では、どのような取引が利益相反にあたるのかという基本から、承認機関の選び方、議事録の押印と印鑑証明書の実務、登記までの流れ、そして実際にあった失敗の型まで、堺市で法人登記と不動産登記のご相談を数多くお受けしてきた経験を踏まえて、実務目線で解説します。

第1章 法人と個人の売買が利益相反取引になる場面

(1)利益相反取引とは何か

利益相反取引とは、取締役が自分の利益と会社の利益が衝突する立場で会社と取引をすることをいいます。会社法では、取締役が自己または第三者のために株式会社と取引をしようとするときは、その取引について重要な事実を開示したうえで、承認を受けなければならないと定められています。

社長個人の土地を会社が買い取る場合、社長は売主として高く売りたい立場と、会社の代表者として安く買うべき立場を同時に持ちます。一人が売主と買主の両方を判断すると会社の財産が不当に流出しかねないため、会社法は本人以外の判断を経ることを求めています。禁止されているのは取引そのものではなく、承認を経ないまま完了させてしまうことです。必要があって行う売買であれば、承認を得たうえで堂々と進めることができます。

(2)直接取引と間接取引の違い

直接取引は、取締役自身が会社の取引相手になる場合です。社長が会社に不動産を売る、会社が社長に売る、というのはいずれもこれにあたります。取締役が別の会社の代表者を兼ねていて、その会社と自分の会社が売買をする場合も、第三者のためにする取引として含まれます。社長が複数社の代表を兼ねる中小企業では、グループ会社間の売買でも出てくる論点です。

間接取引は、相手方は取締役ではないものの、実質的に取締役の利益になり会社に不利益が及ぶ場合です。会社が取締役個人の借入金を保証する、取締役の債務のために会社所有の不動産に抵当権を設定する、といったケースがこれにあたります。売買と同時に担保を設定する場面では二つが重なるため、あわせて確認が必要です。

Q. 取締役を退任した後であれば、会社との売買に承認は必要ありませんか?

A. 利益相反取引の規制は、取引の時点で取締役の地位にある方を対象としています。退任後に会社と売買をする場合、原則としてこの承認は不要です。ただし、退任の登記が済んでいない場合には、登記記録上はまだ取締役として記録されているため、法務局から承認の有無を確認されることがあります。また、退任後も実質的に経営に関与している場合には、後日、他の株主から手続きの適正性を問われることもあります。退任の登記を先に済ませてから売買に入る段取りにしておくと、確認のやり取りを避けられます。

① 判断が分かれやすいケース

迷いやすいのは、取締役本人ではなくその家族が相手方になる場合です。社長の配偶者が所有する不動産を会社が買い取るケースでは、配偶者が取締役でなければ形式的には利益相反取引にあたりません。ただし実質的に取締役の利益になる取引と評価される余地は残るため、なぜその取引が必要だったのかという経緯を記録に残しておくと、後の説明がしやすくなります。

もう一つは、当事者ではない別の取締役が代表者として契約書に署名する場合です。この場合も相手方が取締役である以上は承認が必要で、契約書に並ぶ名前が別人であれば問題ないという誤解は実務でしばしば見かけます。

② 承認を得ないまま取引した場合の影響

承認を得ずに行われた利益相反取引は、会社との関係では効力を主張できないと考えられています。同族会社であっても、経営者が交代したり株主の間で対立が生じたりすれば、この点が現実の争いになります。

登記の場面では、より直接的な支障が生じます。不動産登記の申請では、登記原因について第三者の許可・同意・承諾を要するときは、それを証する情報を提供しなければならないと定められています。会社と取締役の売買では承認機関の議事録がこれにあたるため、議事録がないまま申請しても登記は完了しません。契約と決済を先に済ませてから不備に気づき、日程を組み直すことになる例が少なくありません。

第2章 承認手続きの方法と機関設計による違い

(1)取締役会を設置している会社の場合

取締役会設置会社では、承認は取締役会が行います。会社法は、株主総会の承認を取締役会の承認に読み替える形で定めています。あわせて、取引をした取締役は取引後遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされています。

見落とされやすいのが、承認の決議に当事者である取締役は加われないという点です。決議について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができないと定められているため、社長が売主となる売買では、社長を除いた取締役だけで決議します。定足数の計算からも社長を外すので、取締役2名の会社で1名が当事者になると、残る1名だけで決議が成立するかの確認が必要です。この構造を知らずに全員一致の議事録を作ると、作り直しになります。

(2)取締役会を設置していない会社の場合

取締役会を設置していない会社では、株主総会が承認機関になります。中小企業では取締役会を置いていない会社が多く、実務ではこちらの方が多く出てきます。この場合、当事者である取締役が株主を兼ねていても議決権の行使そのものは制限されないと解されており、取締役会と扱いが異なります。ただし株主が実質的に一人の会社では手続きが形式に流れやすく、後から価格の根拠を示せるかどうかが問われます。

(3)取締役が1人しかいない会社の場合

取締役が社長1人だけの会社でも、承認手続きは省略できません。株主総会が承認機関になり、株主も社長1人であれば実質的に自分で自分の取引を承認することになりますが、登記の添付書面として議事録が必要になるためです。株主全員の同意による書面決議の方法をとれば、実際に会議を開かずに議事録を整えられます。

① 機関設計ごとに必要になる書類

どの機関で承認するかによって、登記に添付する書類と押印する人が変わります。整理すると次のようになります。

機関設計 承認機関 登記に添付する議事録 押印と印鑑証明書
取締役会設置会社 取締役会 取締役会議事録 出席した取締役・監査役の実印と、各自の印鑑証明書
取締役会非設置会社 株主総会 株主総会議事録 議事録を作成した代表取締役の押印と会社印鑑証明書
取締役が1人の会社 株主総会 株主総会議事録(書面決議も可) 議事録を作成した代表取締役の押印と会社印鑑証明書

取締役会設置会社では押印を集める相手が複数になるため、非設置会社に比べて準備に時間がかかります。監査役を置いている場合は監査役の押印も必要になる点に注意が必要です。

② 売買価格をどう決めるか

承認手続きと並んで実務で悩ましいのが価格です。当事者が実質的に同一人であるため価格を自由に決められてしまいますが、会社の代表者には会社の利益を守る立場があり、明らかに会社に不利な価格で取引をすれば、後から責任を問われる余地が残ります。他の株主や金融機関がいる会社では、なぜその価格になったのかを説明できる資料が必要です。

実務では、不動産鑑定士による鑑定評価、公示地価、近隣の取引事例といった材料を組み合わせて根拠を作ることが多く、金額が大きい取引では鑑定評価を取得しておくと第三者に説明しやすくなります。なお、価格の設定は税務上の取扱いにも関わってきますので、その点は顧問税理士にもご確認ください。

第3章 承認議事録の作り方と押印・印鑑証明書の実務

(1)議事録に記載する内容

承認議事録には、対象不動産の表示、売買代金、取引の相手方が誰であるか、その方が取締役であること、そして承認する旨を記載します。不動産の表示は、所在・地番・地目・地積、建物であれば家屋番号・種類・構造・床面積まで、登記事項証明書の記載どおりに書きます。住居表示で書いてしまうと、登記記録上の物件と同一であることが確認できず、補正の対象になります。

取締役会議事録の場合は、当事者である取締役が特別の利害関係を有するため議決に加わらなかったことを明記します。「出席取締役全員一致で可決」とだけ書かれていると、当事者が議決に加わったように読めてしまい、承認としての効力に疑義が生じます。議長についても、当事者が議長を務めた場合は別の取締役に交代した旨を記載しておくと、経緯がわかりやすくなります。

(2)議事録に押す印鑑

不動産登記では、同意または承諾を証する情報を記載した書面には、その作成者が記名押印しなければならないと定められています。ここでいう押印は認印では足りず、印鑑証明書によって本人のものと確認できる印鑑、つまり実印である必要があります。社内で回覧する議事録の感覚で認印を押してしまうと、押し直しになります。

取締役会議事録の場合、実務では出席した取締役および監査役の全員が、それぞれ個人の実印で押印する取扱いが一般的です。監査役を置いている会社では監査役の押印も必要になるため、非常勤で普段会社に来ない監査役がいる場合は、早めに連絡して段取りを組んでおきます。

株主総会議事録の場合は、議事録を作成した代表取締役が会社の実印(法務局に届け出た印鑑)を押す取扱いが多く見られます。どちらの機関で承認するかによって用意すべき印鑑が変わるため、決議の前に確認しておくとよいでしょう。求められる押印の範囲は事案や管轄によって異なることもあるため、迷う場合は申請前に法務局に確認しておくと安心です。

(3)添付する印鑑証明書

押印した印鑑については、印鑑に関する証明書を添付しなければならないと定められています。個人の実印であれば住所地の市区町村長が発行する印鑑証明書、会社の実印であれば法務局が発行する印鑑証明書です。取締役会議事録であれば、押印した取締役・監査役それぞれの分が必要になります。

ここで実務上ありがたいのが有効期限の扱いです。不動産登記令は、申請情報を記載した書面に押印した方の印鑑証明書について作成後3か月以内のものでなければならないと定めていますが、承諾を証する情報に添付する印鑑証明書には、この3か月の制限が置かれていません。売主の印鑑証明書は3か月の期限を意識して取得時期を調整する必要がありますが、議事録に添付する印鑑証明書は、決議の時期に合わせて取得したものをそのまま使える場合があります。決議から決済まで間が空きそうなときに効いてくる違いです。

Q. 取締役会議事録には、会社の実印を押しておけばよいのですか?

A. 取締役会議事録に求められるのは、出席した取締役および監査役それぞれの押印です。実務では各自が個人の実印で押印し、住所地の市区町村長が発行する印鑑証明書を添付する取扱いが一般的で、会社の実印を1か所押しただけでは足りないと判断されることがあります。一方、株主総会議事録の場合は、議事録を作成した代表取締役が会社の実印を押す取扱いが多く見られます。どちらの機関で承認するかによって用意する印鑑と証明書が変わるため、決議の前に確認しておくとよいでしょう。

① 押印の段取りで詰まりやすいところ

実印での押印は、取締役が遠方にいたり高齢であったりすると、それだけで1週間から2週間かかることがあります。取締役が複数いる会社では議事録を郵送で回して押印を集めることになり、途中で1人が押し忘れると回し直しです。押印箇所に付箋を貼り、印鑑証明書の返送用封筒も同封しておくと、往復の回数を減らせます。

意外と多いのが、取締役の中に印鑑登録をしていない方がいるケースです。この場合は市区町村での印鑑登録から始める必要があり、そこだけで数日を見込むことになります。決議の日程を決める前に、押印をお願いする全員が印鑑証明書を取得できる状態かを確認しておくと安心です。

第4章 売買から登記までの流れと関係先への影響

(1)対象不動産と条件を確定する

まず登記事項証明書を取得して、名義・持分・担保の状況を確認します。抵当権が設定されている場合、売買によって担保提供者と債務者の関係が変わるため、金融機関の承諾が必要になることが多いです。ここを確認しないまま話を進めると、決済の直前で金融機関から待ったがかかります。

対象が土地と建物の両方なのか、建物だけなのかも確定させます。建物だけを会社に移すと、土地は個人所有のまま会社が建物を所有する形になり、地代をどう設定するかという新たな取り決めが必要になります。分けて動かす場合は、動かさない側の扱いまで含めて設計しておくことが望ましいでしょう。

(2)売買契約書を作成する

契約書には、売買代金、決済日、引渡しの時期、公租公課の負担、担保権の抹消、決済方法を記載します。法人と個人の売買では代金を実際に動かさず役員貸付金や役員借入金と相殺することがありますが、その場合も相殺の合意を契約書に明記しておきます。記載がないと、後から代金が未払いであると指摘される余地が残ります。

契約書の日付は、承認議事録の日付より後になるように整えます。順序が逆になっていると、承認が後追いだったことが書面上明らかになってしまいます。

(3)所有権移転登記を申請する

登記申請には、登記識別情報または権利証、売主の印鑑証明書、買主の住所を証する情報、承認機関の議事録と押印者の印鑑証明書、委任状などが必要です。会社が当事者になる場合は、会社の登記事項が最新であることも確認します。本店移転や代表者変更の登記が未了だと、契約書の記載と登記が一致せず、補正を求められることがあります。

(4)金融機関・許認可への影響

対象の不動産に抵当権が設定されている場合、所有者が変わることは金融機関にとって重大な事情の変更です。融資契約に無断での譲渡を禁じる条項が入っていることが多く、承諾を得ずに名義を移すと期限の利益を失うおそれがあります

また、建設業許可のように財産的基礎が要件になっている許認可では、主たる資産の移動が要件の充足に影響することがあります。会社の中心的な不動産を個人に移す場合は、許認可の要件を満たし続けられるかを事前に確認しておくと安心です。

① 登記完了までのスケジュールの目安

検討を始めてから登記が完了するまでは、1か月から2か月程度をみておくと無理がありません。価格の根拠づくりと金融機関との調整に2週間から1か月、決議と議事録・印鑑証明書の準備に1週間から2週間、契約と決済に数日、登記の申請から完了までにさらに1週間から2週間程度が目安です。押印を集める人数が多いほど、真ん中の工程が延びます。

第5章 失敗事例とリスク回避のポイント

(1)承認議事録がないまま決済日を迎えた事例

会社が代表取締役から倉庫を買い取る話がまとまり、契約書を交わして決済日まで決めた段階で登記のご依頼をいただいた事例です。書類を確認したところ、取締役会の承認議事録が作成されていませんでした。取締役会設置会社であったため取締役会を開く必要がありましたが、他の取締役が出張中で日程が合わず、決済日を2週間先送りすることになりました。融資の実行日も動かすことになり、金融機関への説明にも時間を要しました。社長は自分の会社なのだから自分で決められると考えていたのですが、承認機関の決議は会社の意思決定であり、代表者個人の判断とは別のものです。

(2)議事録に認印を押してしまい補正になった事例

取締役会の承認自体は決済前に済ませていたものの、議事録に押されていたのが出席取締役の認印だった事例です。登記申請後に法務局から実印での押印と印鑑証明書の提出を求められ、補正のために取締役3名分の押印を集め直すことになりました。うち1名は印鑑登録をしておらず、市区町村での印鑑登録から始めることになり、完了までに10日ほど余分にかかりました。

議事録は社内文書という意識が強いため、押印の格式まで気が回らないまま作られてしまうことがあります。承認の中身が正しくても、印鑑ひとつで日程が動くという点は覚えておいていただきたいところです。

(3)抵当権を残したまま名義だけを移した事例

社長個人が住宅ローンで購入した建物を、事務所として使っていることを理由に会社名義へ変更した事例です。所有権移転登記自体は完了しましたが、金融機関の承諾を得ていなかったため、後日、契約違反を指摘され一括返済を求められる事態になりました。最終的には会社を債務者とする借換えで決着したものの、金利や保証の条件は当初より不利になりました。登記が完了したことは、その取引が契約上も問題がないことの証明にはなりません

① 検討する際のチェックポイント

契約書を作る前に、次の点を確認しておくと手戻りが減ります。承認機関が取締役会と株主総会のどちらになるか。当事者となる取締役を除いて決議が成立する人数がいるか。押印をお願いする全員が実印を持ち、印鑑証明書を取得できる状態か。議事録に書く不動産の表示が登記事項証明書どおりか。対象の不動産に担保が設定されていないか、設定されている場合に金融機関の承諾が得られるか。会社の登記事項が最新の状態になっているか。この6点です。

Q. 承認の決議は、売買契約を結んだ後でも間に合いますか?

A. 登記の申請までに承認を証する議事録が用意できていれば、申請自体は受理されます。ただし、承認は本来、取引をしようとするときに受けるものとされており、契約を先に結んでしまうと、承認が形式を整えるだけのものになってしまいます。他の取締役が承認しなかった場合に、すでに結んだ契約をどう処理するのかという問題も残ります。実務では、契約書を交わす前に承認機関で決議し、議事録の日付が契約日より前になるように段取りを組むことが多いです。

法人と個人の間の不動産売買は、当事者が実質的に同じ人であるがゆえに、手続きが形式的なものに見えてしまいがちです。しかし、会社法が求める承認手続きは登記が受理されるための前提であり、議事録の押印と印鑑証明書までそろって初めて手続きが整います。承認機関を先に確認し、押印をお願いする方の顔ぶれと印鑑証明書の準備状況を早めに把握したうえで契約書を作るという順番を守れば、この取引は事業承継や資産の組み替えを進める有効な手段になります。会社と経営者の間で不動産を動かすことをご検討の場合は、契約書を作る前の段階で専門家に相談し、承認手続きと書類の準備を並行して進めておくことをおすすめします。

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1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。

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