公正証書遺言がある場合の相続の注意点
大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
第1章 公正証書遺言があるからといって安心しきれない理由
大阪の堺の司法書士の植田麻友です。「公正証書遺言を作成しているので、相続手続きは何の心配もいらない」と考えていらっしゃる方は少なくありません。たしかに公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて方式の不備による無効リスクが低く、家庭裁判所での検認手続も不要という大きなメリットがあります。しかし、公正証書遺言があるからといって、相続手続きのすべてが自動的にスムーズに進むわけではありません。この章では、公正証書遺言の限界と、実際の相続手続きで生じやすい問題について整理します。
(1)公正証書遺言のメリットとその限界
公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、方式不備による無効リスクが低いという点で優れた制度です。また、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造のリスクも大幅に軽減されます。
① 検認手続が不要というメリット
自筆証書遺言の場合、相続開始後に家庭裁判所での検認手続が必要となり、この手続だけで数週間から数か月の時間がかかることがあります。公正証書遺言であれば検認が不要であるため、相続手続きの初期段階を大幅に短縮できるという利点があります。
② 「安心」と「万全」は同じではない
ただし、検認が不要であることと、相続手続き全体が円滑に進むことは、まったく別の問題です。公正証書遺言はあくまで「有効な遺言書が存在する」ことを保証するものであり、相続人間の感情的な対立や、遺留分をめぐる紛争までを防ぐものではありません。実務上、公正証書遺言があるにもかかわらず、相続人間で深刻なトラブルに発展するケースを数多く目にしてきました。
(2)相続開始後に生じやすいトラブルの実態
公正証書遺言が存在する場合でも、相続開始後には様々な問題が浮上することがあります。
① 遺言内容と現実の資産状況のズレ
遺言書作成時から相続開始までに数年、場合によっては十数年が経過していることも珍しくありません。その間に、遺言書に記載された不動産を売却していたり、預貯金の残高が大きく変動していたりすることがあります。このような場合、遺言書の記載内容と実際の相続財産の状況が一致せず、解釈をめぐって相続人間で意見が分かれることがあります。
② 相続人間の感情的な対立
特定の相続人に多くの財産を相続させる内容の遺言書である場合、他の相続人が不満を抱くことは自然な感情といえます。公正証書遺言という法的に有効な書面があっても、「なぜこのような内容になったのか」という感情的なわだかまりが解消されるとは限りません。このような感情的対立は、後述する遺留分侵害額請求の場面でさらに顕在化することがあります。
(3)専門家に相談するタイミング
公正証書遺言をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、相続が開始してからではなく、できる限り早い段階で専門家の関与を得ておくことが有効です。
① 遺言者の生前に内容を確認しておく重要性
可能であれば、遺言者が存命中に、遺言の内容と現在の財産状況が一致しているかを定期的に確認してもらうことが理想的です。財産状況に大きな変化があった場合には、遺言の内容を見直すことも検討すべきです。当事務所では、すでに公正証書遺言を作成された方からも、内容の見直しや追加のコンサルティングをご依頼いただくことがあります。
② 相続開始後、早期相談のメリット
既に相続が開始してしまった場合でも、できる限り早い段階で司法書士などの専門家に相談することで、手続きの全体像を把握し、相続人間の不必要な誤解や対立を未然に防ぐことができます。特に遺留分や名義変更の期限が関わる場面では、早めの行動が後のトラブル回避につながります。
第2章 公正証書遺言の内容確認と相続手続の進め方
相続が開始したら、まず公正証書遺言の内容を正確に確認し、その後の手続きの流れを把握することが重要です。この章では、遺言内容の確認方法と、相続手続き全体のスケジュールについて解説します。
(1)遺言書の内容をどう確認するか
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているため、まずは遺言書の存在と内容を確認する必要があります。
① 公証役場での謄本請求
遺言者から遺言書の正本または謄本を渡されている場合は、その内容を確認すればよいのですが、渡されていない場合や紛失してしまった場合には、遺言者が作成した公証役場に対して謄本の交付を請求する必要があります。請求できるのは、相続人や受遺者など、法律上の利害関係を有する方に限られます。
② 遺言検索システムの活用
どの公証役場で遺言書が作成されたか分からない場合は、日本公証人連合会の遺言検索システムを利用することで、全国の公証役場に保管されている遺言書の有無を調べることができます。この検索は相続開始後でなければ利用できず、相続人本人または代理人が必要書類を持参して手続きを行う必要があります。
(2)相続手続きの全体像とスケジュール
遺言内容が確認できたら、実際の相続手続きに着手します。手続きの流れは大きく分けて以下のようになります。
① 相続財産の把握と評価
遺言書に記載されている財産だけでなく、記載漏れの財産がないかを確認するため、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書などを取得し、相続財産全体を正確に把握する作業が必要です。
② 名義変更手続きの流れと主な費用
相続財産の把握が完了したら、不動産や預貯金などの名義変更手続きに進みます。主な手続きにかかる費用の目安は以下のとおりです。
| 手続き内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 公正証書遺言の謄本交付手数料 | 数千円程度 |
| 不動産の相続登記(登録免許税) | 固定資産評価額の0.4% |
| 戸籍謄本等の取得費用 | 数千円〜1万円程度 |
| 司法書士への手続き依頼費用 | 案件により異なる |
| 合計(目安) | 登録免許税+実費で数万円〜数十万円程度 |
なお、司法書士報酬は事案の内容や財産の規模によって大きく異なるため、上記の合計はあくまで登録免許税や実費部分の目安としてご参考ください。
(3)手続きにかかる期間の目安と他の手続きとの関係
名義変更手続きにどの程度の期間がかかるのか、また相続放棄など他の手続きとの関係も事前に把握しておきたいポイントです。
① 名義変更手続きが完了するまでの期間
不動産の相続登記は、必要書類が揃えば通常数週間程度で完了することが多いですが、戸籍の収集に時間がかかる場合や、相続人の一部が遠方に居住している場合には、書類の取り寄せや確認に余分に時間を見ておく必要があります。預貯金の解約も、金融機関の内部手続きによっては2週間からヶ1ヶ月程度を見ておくと安心です。
② 相続放棄・限定承認を検討する場合の注意
公正証書遺言があっても、相続財産に多額の負債が含まれている場合には、相続放棄や限定承認を検討する必要があります。これらの手続きは相続の開始を知った日から3ヶ月以内という短い期間制限があるため、遺言の内容を確認すると同時に、負債の有無も早急に調査することが重要です。
第3章 遺留分侵害額請求との関係で注意すべき点
公正証書遺言があっても、相続人の遺留分まで奪うことはできません。この章では、遺留分制度の基本と、公正証書遺言がある場合に特に注意すべき点を解説します。
(1)遺留分制度の基本
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分のことです。
① 遺留分侵害額請求とは
遺言によって特定の相続人や第三者に財産の大部分が遺贈・相続された結果、他の相続人の取り分が遺留分に満たない場合、その相続人は遺留分侵害額請求という形で、金銭による支払いを求めることができます。
② 請求できる相続人の範囲
遺留分が認められるのは、配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属に限られ、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。この点は、遺言内容を検討する際にも、相続開始後の対応を検討する際にも重要なポイントです。
(2)公正証書遺言があっても遺留分は消えない
「公正証書遺言があるのだから、その内容がすべて優先される」と誤解されている方もいらっしゃいますが、これは正確ではありません。
① 時効・除斥期間に注意
遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、相続開始から10年で時効・除斥期間により消滅します。この期間を過ぎてしまうと請求ができなくなるため、遺留分を主張したい相続人は早めに専門家に相談することが望ましいといえます。
② 話し合いでの解決を目指す姿勢
遺留分侵害額請求は、必ずしも訴訟に発展するものではありません。相続人間で誠実に話し合い、支払方法や金額について合意ができれば、円満に解決することも十分に可能です。感情的な対立が深まる前に、専門家を交えた冷静な話し合いの場を持つことをお勧めしています。
Q. 公正証書遺言に「遺留分を請求しないこと」と書いてあれば、遺留分は請求できなくなりますか。
A. いいえ、遺言書に遺留分を請求しない旨が記載されていても、その記載に法的拘束力はなく、遺留分権利者は遺留分侵害額請求を行うことができます。遺留分は法律上保障された権利であり、遺言者の意思のみで一方的に奪うことはできません。
(3)遺留分をめぐる交渉と出口戦略
遺留分侵害額請求への対応では、支払い方法や交渉が難航した場合の出口をあらかじめ想定しておくことが実務上重要です。
① 代償金の分割支払いや不動産での現物給付という選択肢
遺留分侵害額は金銭による支払いが原則ですが、支払う側に十分な現金がない場合には、裁判所に対して支払い期限の献予を請求することも可能です。また、当事者間の合意ができれば、一部を分割で支払う、あるいは不動産の一部を代償として提供するといった柔軟な解決方法を検討することもあります。
② 交渉が難航した場合の家庭裁判所・訴訟という出口
当事者間の話し合いで解決が困難な場合は、家庭裁判所の調停手続きや、最終的には訴訟という手段を取らざるを得ないこともあります。このような事態に至る前に、司法書士や弁護士などの専門家を交えて交渉の窓口を一本化し、感情的な行き違いを避けながら現実的な落としどころを探ることが、結果として時間と費用の負担を抱えることにつながります。
第4章 相続手続き実務上の注意点
公正証書遺言がある場合の相続手続きでは、遺言執行者の有無や、不動産・預貯金といった財産の種類ごとに、実務上気を付けるべきポイントがあります。
(1)遺言執行者の役割と選任
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を持つ人のことです。
① 遺言執行者がいる場合といない場合の違い
公正証書遺言の中で遺言執行者が指定されている場合、不動産の名義変更や預貯金の解約手続きなどを、遺言執行者が単独で進めることができるため、手続きが比較的スムーズに進みます。一方、遺言執行者が指定されていない場合は、相続人全員の協力が必要になる場面が生じ、手続きに時間がかかることがあります。
② 専門家に依頼するメリット
相続人間の関係が良好でない場合や、相続財産が複雑な場合には、司法書士や弁護士などの専門家を遺言執行者に選任しておく、あるいは相続開始後に専門家へ手続きを依頼することで、相続人間の直接のやり取りを減らし、手続きを円滑に進めることができます。
(2)不動産・預貯金の名義変更手続き
相続財産の中心となる不動産と預貯金について、それぞれの名義変更手続きの注意点を確認します。
① 不動産の相続登記
2024年4月からは相続登記の申請が義務化されており、正当な理由なく相続開始及び所有権取得を知った日から3年以内に登記申請をしないと、過料の対象となる可能性があります。公正証書遺言がある場合は、遺産分割協議を経ずに登記できるケースが多いため、比較的早期に手続きを進めやすいという特徴があります。
② 銀行預金の解約・払戻し手続き
預貯金の解約・払戻し手続きでは、金融機関ごとに必要書類や手続きの流れが異なります。公正証書遺言と遺言執行者の印鑑証明書等があれば、比較的スムーズに手続きが進むことが多いですが、金融機関によっては相続人全員の同意書を求められるケースもあるため、事前に各金融機関へ確認しておくことをお勧めします。
Q. 遺言執行者が指定されていない場合、相続人の一人が単独で不動産の名義変更手続きを進めることはできますか。
A. 公正証書遺言の内容が特定の相続人に特定の不動産を「相続させる」という内容であれば、原則としてその相続人が単独で相続登記を申請することが可能です。ただし、遺贈の場合や遺言内容が複雑な場合には、他の相続人の協力や専門家への相談が必要となることがありますので、事案ごとに確認することをお勧めします。
(3)金融機関・公証役場とのやり取りで生じやすい実務上の壁
実際の手続きでは、金融機関や公証役場とのやり取りの中で、予想外の手間が生じることがあります。
① 金融機関ごとに異なる必要書類への対応
同じ公正証書遺言を提示しても、金融機関によって求められる付属書類が異なることがあります。事前に各金融機関の窓口で必要書類を確認し、一度の訪問で手続きが完了するよう準備を整えておくことが、何度も窓口に足を運ぶ手間を防ぐポイントです。
② 公証役場への内容照会や再謄本請求の実務
遺言内容の解釈に疑問が生じた場合や、謄本を追加で取得する必要がある場合には、作成した公証役場へ直接問い合わせることができます。公証役場は遺言の解釈や今後の方針についてのアドバイスは行えない立場であるため、内容の解釈自体に迷う場合は、やはり司法書士や弁護士に相談するのが安心です。このような実務上の壁を事前に想定しておくことで、手続き全体の見通しが立てやすくなります。
第5章 まとめ
公正証書遺言は、相続手続きを円滑に進めるための非常に有効な手段ですが、それだけで全ての問題が解決するわけではありません。遺言内容と実際の資産状況のズレ、相続人間の感情的な対立、遺留分侵害額請求への対応、遺言執行者の要否や名義変更手続きの実務など、公正証書遺言があるからこそ気を付けておきたい注意点が数多く存在します。
大切なご家族が残された公正証書遺言を、円満かつ確実に実現するためには、早い段階で司法書士などの専門家に相談し、手続きの見通しを立てておくことが安心につながります。堺・堺東エリアで相続手続きにお悩みの方は、お気軽に当事務所までご相談ください。
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






