代表取締役の選定について
大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
会社を設立した後、あるいは会社を運営していく過程で、必ず直面するテーマが「代表取締役をどのように選ぶか」という問題です。代表取締役は、会社の顔であり、法律上は会社を代表してあらゆる行為を行う権限を持つ、最も重要な役員です。名刺の肩書きだけの話ではありません。銀行との融資交渉、取引先との契約締結、許認可の申請、さらには訴訟の当事者となる場合も含め、代表取締役の選定は会社の命運を左右する根幹的な法的決断です。
ところが、実際の起業相談や会社変更登記の現場では、「社長を決めれば良いんでしょう?」「誰でも代表にできるんですよね?」という認識で手続きを進めようとされる方が少なくありません。しかし、代表取締役の選定には、会社の機関設計・定款の内容・株主構成・登記手続きが緊密に絡み合う複雑な実務が存在します。
この記事では、堺市で数多くの会社設立・商業登記を手がけてきた司法書士・行政書士の立場から、代表取締役の選定に関わる法的知識、実務手続き、そして変更・交代時のリスク管理まで、体系的にお伝えします。
第1章 代表取締役とは何か――その法的地位と権限の本質
(1)「取締役」との決定的な違い:代表権という権限の意味
会社法上、取締役と代表取締役は全く別の法的地位です。この点を混同したまま設立登記を行ってしまうケースが非常に多く見られます。
取締役とは、会社の業務執行を決定し、監督する機関です。複数名置くことができ、経営判断の場(取締役会または取締役全員の合意)に参加します。しかし、取締役というだけでは、外部(第三者)に対して会社を代表する権限は原則として与えられていません。
これに対して、代表取締役は、対外的に会社を代表して法律行為を行う権限(代表権)を持つ役員です。代表取締役が締結した契約や合意は、すべて会社の行為として有効に成立します。逆に言えば、代表権のない取締役が「社長」と名乗って契約書に押印しても、相手方が善意無過失である場合を除き、会社はその責任を問われるリスクがあります。
取締役会設置会社においては、取締役の中から代表取締役を必ず選定しなければならず(会社法第362条第3項)、取締役会非設置会社では、取締役全員が代表取締役となるか、または一部の者を選定するかを選択できます。
(2)代表取締役が負う善管注意義務・忠実義務
代表取締役には、取締役としての一般的な義務に加え、代表者としての高度な責任が課されます。
善管注意義務とは、その地位にある者として社会通念上期待される注意義務のことです(民法第644条)。代表取締役は、会社の利益を最大化するために、合理的な経営判断を行い続ける義務を負います。
忠実義務とは、法令・定款および株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実に職務を行う義務です(会社法第355条)。自己や第三者の利益のために会社の利益を犠牲にすることは許されません。
これらの義務に違反した場合、代表取締役は会社に対して損害賠償責任を負うのみならず、第三者(取引先・債権者・株主等)に対しても責任を問われる可能性があります(会社法第429条)。特に中小企業では代表者個人の保証債務と会社の債務が絡み合っていることが多く、代表取締役の責任の重さは起業家が想定するよりもはるかに大きいと言わざるを得ません。
(3)一人会社・小規模会社における代表取締役のあり方
株式会社では取締役が1名のみの場合(いわゆる一人会社)、その唯一の取締役が自動的に代表取締役となります。この場合、「代表取締役」と「取締役」を別々に登記するのではなく、「代表取締役」として登記される形になります。
一人会社の代表取締役は、株主総会の決議も自分一人で行えるため、手続き上は非常にスムーズです。しかし、内部牽制機能が働かず、善管注意義務・忠実義務の自己規律がより一層重要になります。小規模な事業でも、議事録の作成・保管を怠らないこと、適切な帳簿管理を行うことが、将来の融資審査や事業承継において大きな意味を持ちます。
第2章 代表取締役の選定方法――3つのルートと定款設計
(1)株主総会による直接選定(取締役会非設置会社)
取締役会を設置していない会社(多くの中小・スタートアップ企業が該当)では、株主総会の決議によって代表取締役を直接選定することができます(会社法第295条第1項)。
この方法の最大のメリットは、株主の意思が直接代表者の選定に反映される点です。取締役同士の政治的な駆け引きが生じにくく、小規模会社では最もシンプルな方法です。決議要件は原則として普通決議(過半数の賛成)ですが、定款で要件を加重することも可能です。
実務上は、設立時に「発起人決定書(一人設立の場合)」または「創立総会議事録」によって初代代表取締役を定めることが一般的です。
(2)取締役会による互選(取締役会設置会社)
取締役会設置会社では、取締役会の決議によって代表取締役を選定します(会社法第362条第3項)。取締役会の決議は取締役の過半数が出席し、出席取締役の過半数の賛成によって成立します。
この方法は、複数の取締役が経営に参画している中規模以上の企業や、外部投資家が取締役を派遣している会社では標準的な選定方法です。取締役会議事録が法的証拠として機能するため、議事録の正確な作成・保管が必須となります。
また、代表取締役が辞任・死亡・解任となった場合も、取締役会の決議によって速やかに後任を選定できる点で、事業継続性の観点から優れています。
(3)定款による選定とその注意点
定款に「代表取締役は○○とする」と直接記載する方法もあります。この場合、定款の変更(株主総会の特別決議)をしない限り代表取締役は変更できないため、長期的に代表者を固定したい場合には有効なスキームです。
ただし、定款で代表取締役を定める場合は、その者が死亡・辞任・資格喪失した際に代表者不在という深刻な状況が生じます。迅速な定款変更登記が必要になるため、緊急時の対応手順をあらかじめ決めておく必要があります。
【比較表】代表取締役の選定方法
| 選定方法 | 対象会社 | 決議要件 | メリット | デメリット・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 株主総会による選定 | 取締役会非設置会社 | 普通決議(過半数) | 株主意思が直接反映される。手続きがシンプル | 株主が多い場合は調整が必要 |
| 取締役会による互選 | 取締役会設置会社 | 取締役の過半数の出席・賛成 | 迅速な交代が可能。事業継続性に優れる | 議事録の厳格な管理が必要 |
| 定款による選定 | 全種類の会社 | 定款変更は特別決議 | 長期的な代表者固定が可能 | 変更に手間がかかる。緊急時に対応困難 |
| ※いずれの方法でも、選定後は2週間以内に法務局への登記申請が必要(会社法第915条) | ||||
第3章 選定手続きの実務フロー――登記申請まで
(1)決議機関の確認と招集通知の要件
代表取締役の選定手続きを始める前に、まず自社の定款と登記事項を確認する必要があります。確認すべき事項は、①取締役会設置会社か否か、②代表取締役の選定方法が定款に定められているか、③取締役の任期がいつ満了するかの3点です。
株主総会を招集する場合、取締役会非設置会社では、原則として総会の1週間前(定款で短縮可)までに株主に招集通知を送付しなければなりません(会社法第299条第1項)。書面投票・電子投票制度を採用している場合は2週間前です。
一人会社の場合は、招集通知の省略が可能(全株主の同意があれば)なため、実務上は「書面決議(みなし決議)」を活用して手続きを大幅に簡略化できます。
(2)就任承諾書・印鑑証明書の準備
代表取締役に選定された者は、その地位を承諾する意思表示として就任承諾書を作成する必要があります。就任承諾書には、選定された日付・就任する地位(代表取締役)・氏名・住所・押印が必要です。
また、代表取締役の登記には、原則として代表取締役個人の印鑑証明書(市区町村発行・発行後3か月以内のもの)の添付が必要です(商業登記規則第61条第4項)。
ただし、再任の場合(前任と同一人物が引き続き代表取締役に選定される場合)や、既に登記所に印鑑を提出している代表取締役による申請の場合は、印鑑証明書の添付が不要なケースもあります。このあたりは個別の事案によって異なりますので、登記前に必ず確認することをお勧めします。
(3)法務局への登記申請の実務
代表取締役の選定に関する登記申請は、選定の日から2週間以内に本店所在地を管轄する法務局に対して行わなければなりません(会社法第915条第1項)。
この2週間という期限を超過すると、代表取締役(または申請を怠った取締役)に対して100万円以下の過料が科される可能性があります(会社法第976条第1号)。手続きに時間がかかると思ったら、早めに司法書士に相談することが最善策です。
登記申請の方法は、①法務局窓口への持参、②郵送、③オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)の3つです。近年ではオンライン申請の利便性が向上しており、司法書士事務所からのオンライン申請も一般的になっています。
(4)公証役場・銀行との連携
代表取締役の選定・変更が生じた場合、登記申請と並行して以下の実務対応が必要になることがあります。
銀行口座の代表者変更:銀行に届出を行い、代表者印(銀行印)・代表者の本人確認書類・登記事項証明書等を提出する必要があります。銀行によって必要書類が異なるため、事前確認が必須です。
融資(保証)関係の見直し:代表者個人の保証が付いている融資については、代表者変更時に金融機関との協議が必要になります。特に、前代表者の根抵当権・個人保証が残っている場合、新代表者への移行手続きを怠ると、将来的な融資枠の消滅や担保問題が発生する可能性があります。
許認可の変更届出:建設業許可・宅建業免許・飲食業許可など、代表者名で取得している許認可については、所轄官庁への変更届出が必要です。届出期限は許認可の種類によって異なります。
【必要書類一覧】
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 株主総会議事録(または取締役会議事録) | 自社作成 | 司法書士作成代行は別途費用 |
| 就任承諾書 | 自社作成 | 就任者の押印が必要 |
| 印鑑証明書(代表取締役個人) | 市区町村窓口またはコンビニ | 発行後3か月以内のもの |
| 登記申請書 | 自社作成または司法書士作成 | 法務局のひな形を利用可 |
| 登録免許税(役員変更) | 収入印紙(法務局窓口等) | 資本金1億円以下:1万円、資本金1億円超:3万円 |
| 登記事項証明書(変更後確認用) | 法務局・オンライン申請 | 銀行提出用に複数通取得が一般的 |
第4章 代表取締役変更・交代時のリスクと対策
(1)急死・急病・失踪時の緊急法的対応
中小企業において最も深刻な問題の一つが、代表取締役が突然死亡・意識不明・失踪した場合の対応です。この状態では会社の意思決定機能が完全に停止し、契約の締結、銀行への届出、税務申告、さらには従業員への給与支払いすら困難になり得ます。
まず、代表取締役が欠けた場合(会社法第346条)、残存する取締役が一時的に業務執行取締役として機能することができますが、代表権は自動的には引き継がれません。速やかに株主総会または取締役会を開催して後任の代表取締役を選定する必要があります。
取締役が全員不在・欠格になっている場合は、利害関係人(債権者・株主等)が裁判所に申し立てて一時取締役(仮取締役)の選任を求めることができます。しかし、この手続きには時間と費用がかかるため、日頃から後継代表取締役の候補者を定款または取締役会決議で定めておくことが実務上の最善策です。
(2)後継者への権限移転と出口戦略
事業承継・M&Aを視野に入れた出口戦略においても、代表取締役の選定・交代は核心的なテーマです。
事業承継では、親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3パターンがありますが、いずれにおいても代表取締役の変更登記が伴います。特に問題になるのが、前代表者が個人保証していた融資の扱いです。
経営者保証に関するガイドラインでは、事業承継時に前代表者の保証を解除し、新代表者のみが保証する形への移行が推奨されています。しかし、銀行側がこれを認めるかどうかは、会社の財務状況・担保余力・新代表者の信用力によって異なり、実際の交渉では金融機関との粘り強い協議が必要となることが多いです。
① 親族内承継の留意点
後継者(子・配偶者等)を取締役として先に登記し、実務経験を積ませながら段階的に権限を移行するスキームが理想的です。いきなり代表取締役を変更すると、取引先・銀行から「本当に事業継続できるのか」という懸念が生じるリスクがあります。
② 従業員承継・MBOの留意点
従業員が代表取締役に就任する場合、持株比率の問題(株式を引き継ぐ資金があるか)と代表者保証の問題が同時に生じます。株式譲渡と代表取締役変更登記を同一日付で行うか否かでも税務上の取扱いが変わるため、司法書士・税理士・社労士の連携が不可欠です。
③ M&A(第三者承継)の留意点
株式譲渡型M&Aでは、クロージング日に株主が交代し、その直後に株主総会または取締役会で新代表取締役を選定するのが一般的な流れです。デューデリジェンス(企業調査)の段階で代表取締役の過去の法令違反・訴訟歴・保証状況が精査されるため、日頃からのコーポレートガバナンスの整備が重要です。
(3)銀行融資・担保・保証への影響と交渉実務
代表取締役が変わると、金融機関との関係も再設定が必要になります。特に以下の点に注意が必要です。
根抵当権の債務者変更:代表者個人が債務者となっている根抵当権がある場合、新代表者への債務者変更登記が必要です。旧代表者が保証人の場合は、保証契約の見直しも必要となります。
信用保証協会の保証:信用保証協会の保証付き融資については、代表者変更に際して協会への届出・承認が必要です。承認を得ないまま代表者変更すると、期限前返済を求められる場合があるため注意が必要です。
銀行印・代表者届出印の変更:金融機関ごとに届出が必要で、法人の印鑑証明書(登記所発行)や新代表取締役の本人確認書類の提出を求められます。複数の金融機関と取引がある場合は、変更手続きに数週間〜1か月程度の時間を見込んでください。
(4)複数代表取締役制の活用とリスク
会社法上、代表取締役は複数名置くことも可能です。例えば「代表取締役A(業務執行担当)」「代表取締役B(財務担当)」のように、それぞれが会社を代表する権限を持ちます。
複数代表取締役制のメリットは、リスク分散・業務負荷の分担・緊急時の対応力向上にあります。しかし、それぞれが独立した代表権を持つため、一人が勝手に会社に不利な契約を締結してしまうリスクも存在します。
第5章 まとめ――代表取締役の選定を戦略的に考える
代表取締役の選定は、設立時の「誰が社長になるか」という問題にとどまりません。会社の機関設計・定款内容・株主構成・金融機関との関係・事業承継戦略まで、多岐にわたる法律・実務問題が集中する「経営の急所」です。
正しい方法で選定し、適切なタイミングで登記を完了させることが、銀行融資・許認可・取引先との信頼関係を守ることに直結します。そして、万一の緊急事態や将来の事業承継を見据えた事前準備が、会社の存続と発展を支える基盤となります。
A:いいえ、代表取締役に株主であることは必要ありません。会社法上、取締役は株主でなくても就任できます(定款で別段の定めがある場合を除く)。したがって、株主ではない従業員や外部の専門家が取締役・代表取締役に就任することは完全に合法です。ただし、代表取締役は取締役の中から選定される必要があるため、まず取締役への就任が前提となります。
A:最優先事項は、2週間以内の変更登記の申請です。次に、①メインバンクへの代表者変更届、②信用保証協会への連絡(保証付き融資がある場合)、③許認可を所管する官庁への変更届出を進めます。また、重要な取引先へは早期に連絡し、新代表取締役の名刺・契約書等の整備を行います。登記後に発行した登記事項証明書は複数通取得しておくと、銀行・官庁・取引先への提出にスムーズに対応できます。
A:現行制度では、代表取締役の住所は登記事項として法務局に登録され、登記事項証明書に記載されます。ただし、令和6年(2024年)10月1日から施行された「代表取締役等住所非表示措置」を申請することで、登記事項証明書上の住所を市区町村単位までの表示に留め、番地以降を非表示にすることができます。一定の要件(実在性の証明等)を満たす必要がありますので、詳細は当事務所までご相談ください。
南海堺東駅近くの当事務所では、司法書士・行政書士の専門資格を活かし、代表取締役の選定・変更登記から、事業承継・M&A支援、銀行・官庁との手続き連携まで、ワンストップでサポートしています。「誰を代表に立てれば良いか迷っている」「代表が急に変わることになった」「将来の事業承継を今から準備したい」という方は、まずはお気軽にご相談ください。
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ。南海堺東駅徒歩3分の司法書士事務所Mayの代表司法書士・行政書士。会社設立・相続登記・商業登記・企業法務を中心に、中小企業の法務を幅広くサポート。地元大阪・堺の経営者に寄り添った実務を心がけています。 |






