相続放棄の注意点|民法上の定義と遺産分割協議との相違について
大阪の堺の司法書士の植田麻友です。
弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。
身内の方が亡くなられた際、遺産の中に借金や未払金といった「負の遺産」が含まれていることが判明した場合、多くの相続人が検討されるのが「相続放棄」という選択肢です。しかし、この手続きは単に「財産はいらない」と意思表示をすれば済むという単純なものではありません。民法という厳格な法律のルールに基づき、家庭裁判所という公の機関を介して初めて成立する制度です。
実務の現場では、この法的な相続放棄と、親族間での話し合いによる「事実上の取り分の辞退」を混同してしまい、後に債権者から多額の督促を受けて驚かれるケースが後を絶ちません。
1.民法における相続放棄の定義と法的効果
民法において、相続人は相続の開始があったことを知った時から、単純承認、限定承認、または放棄を選択できるとされています(民法第915条第1項)。
(1)相続放棄の法的効力(民法第939条)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。この「初めから相続人とならなかったものとみなす」という文言は、単に財産を受け取らないという意味にとどまりません。プラスの財産はもちろん、マイナスの財産(負債)についても、法律上の承継関係から完全に離脱することを意味します。
(2)相続順位への波及効果
相続放棄がなされると、その相続人は最初から存在しなかったものとして扱われるため、次順位の者が相続権を得ることになります。例えば、第一順位の子供全員が放棄した場合、第二順位である直系尊属(親など)が相続人となります。親も既に亡くなっている、あるいは放棄した場合は、第三順位の兄弟姉妹へと相続権が移ります。このように、放棄の影響が親族間に連鎖的に波及するため、独断で行うのではなく、次順位の方への配慮や説明が必要となる場面も実務上多く見受けられます。
2.相続放棄と「遺産分割協議での辞退」の相違
実務上、最も注意を要するのが、相続放棄(民法第938条)と、遺産分割協議(民法第906条以下)による財産の不受領を混同しているケースです。
| 項目 | 法律上の相続放棄 | 遺産分割協議での辞退 |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 民法第938条 | 民法第906条、第907条 |
| 手続き先 | 家庭裁判所(申述) | 相続人間での話し合い |
| 対債権者への効力 | 主張できる(支払い義務なし) | 主張できない(支払い義務あり) |
| 期限 | 原則として3か月以内 | 特になし |
債権者に対する主張の可否
遺産分割協議において「私は不動産も預金もいらないので、他の相続人がすべて引き継いでください」と合意し、遺産分割協議書に実印を押印したとしても、それはあくまで相続人内部の約束事にすぎません。債権者(銀行、消費者金融、未払金の請求者など)に対しては、「私は財産をもらっていないので借金も払いません」という主張は通用しないのです。借金を完全に免れるためには、必ず民法第938条に基づく家庭裁判所への申述が必要となります。この「事実上の放棄」を信じ込んで数年後に督促を受ける悲劇を、私たちは司法書士として一件でも減らしたいと考えています。
3.熟慮期間の定義と単純承認の擬制(民法第921条)
相続放棄はいつでもできるわけではありません。民法第915条第1項により、相続人は「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に手続きをしなければならないと定められています。
(1)法定単純承認のリスク(民法第921条第1号)
相続人が「相続財産の全部または一部を処分したとき」は、相続を単純承認したものとみなされます。これは法律上の擬制であり、一度処分行為を行ってしまうと、後から借金が発覚しても原則として相続放棄は受理されなくなります。
具体的には、亡くなった方の預金を引き出して自分のために使ったり、形見分けの範疇を超える高価な品を売却したりする行為が「処分」に該当するおそれがあります。良かれと思って行った葬儀費用の支払いについても、その原資がどこから出ているかによって判断が分かれる繊細な問題です。
(2)熟慮期間の伸長(民法第915条第1項後段)
遺産が多岐にわたり、借金の有無を含めた調査が3か月以内に終わらない場合、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所は熟慮期間を伸長することができます。調査が難航することが予想される場合は、期限が到来する前にこの申し立てを行うことが実務上の鉄則です。一度過ぎてしまった期限を戻すことは極めて困難だからです。
4.熟慮期間経過後の相続放棄と「相当な理由」
原則として3か月を過ぎた相続放棄は認められませんが、判例法理(最高裁昭和59年4月27日判決等)により、例外的な救済が認められています。
期限後の受理を可能にする論理
「相続人が被相続人に全く相続財産がないと信じており、かつ、そのように信じることに相当な理由がある場合」には、熟慮期間は「相続財産の全部または一部の存在を認識した時、あるいは通常認識できたであろう時から起算する」という解釈がなされています。
ただし、この「相当な理由」の立証は極めて高度な法的構成を要します。単に「知らなかった」という主観的な主張だけでは不十分であり、被相続人との交流状況、生前の生活実態、督促状の有無など、客観的な状況を精査した上での申述が必要です。受理の可能性を最大化するためには、専門家である司法書士による詳細な事情説明書(上申書)の作成が不可欠です。この上申書一つで、その後の人生が変わると言っても過言ではありません。
5.相続放棄後の保存義務について(民法改正の視点)
「相続放棄をすれば、空き家や山林の管理からも解放される」と考えている方は多いですが、ここにも落とし穴があります。令和5年4月施行の改正民法により、相続放棄をした者の管理義務の範囲が明確化されました。
(1)相続財産管理義務(民法第940条)
相続の放棄をした者は、相続放棄時点で「現に占有している場合」、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされています。つまり、あなたが放棄したことで次に相続人になった人が現れるまで、あるいは相続財産清算人が選任されるまで、勝手に放置して近隣に迷惑をかけて良いわけではないのです。
(2)空き家放置による損害賠償リスク
放棄した実家が崩落し、通行人に怪我をさせた場合、管理を継続すべき立場にある元相続人が責任を問われる可能性があります。管理から完全に離脱するためには、家庭裁判所へ「相続財産清算人」の選任を申し立てる必要がありますが、これには予納金(数十万円〜)が必要になることが多く、実務上非常に悩ましい問題となっています。
6.相続放棄をしても受け取れるもの・受け取れないもの
相続放棄をすると「すべての財産」を失うと思われがちですが、法的には「相続財産」に該当しないものは受け取ることが可能です。
- 生命保険金(死亡保険金):受取人が特定の相続人に指定されている場合、それは受取人固有の財産とみなされるため、相続放棄をしていても受け取れるのが原則です。
- 遺族年金:受取人の生活保障という目的があるため、相続財産には含まれず、受給可能です。
- 葬儀費用:香典は贈与の性質を持つため受け取れますが、亡くなった方の預金から葬儀費用を出す行為は「処分(単純承認)」とみなされるリスクがあるため、自己資金で立て替えるのが最も安全です。
7.まとめ:確実な法的解決を選択するために
相続放棄は、負の遺産による困窮を回避し、相続人の生活基盤を守るための民法上の重要な制度です。しかし、手続きの「期限」「方式」、そして「放棄後の責任」には一分の隙も許されません。特に、インターネット上の断片的な情報を鵜呑みにして自己判断で行うことは、一生消えない負債を背負うという取り返しのつかない結果を招く可能性があります。
「放棄した後の実家の管理はどうすればいいのか」
堺東駅近くの当事務所では、これまで数多くの相続放棄案件を取り扱ってまいりました。民法の最新規定を遵守しつつ、個別の事情に即した丁寧な聞き取りを行い、裁判所が受理しやすい適切な申述書類を作成いたします。法律の問題は、初期対応がその後の成否を分けます。特に「3か月」という時間は、驚くほど速く過ぎ去ります。一人で悩まず、まずは専門家である私たちにご相談ください。あなたの権利を守り、安心を取り戻すお手伝いをさせていただきます。中小企業を元気にし、地域の家族の絆を守ること。それが私の使命です。
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友
| 1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。 |






