『みなし解散』から会社を復活させる方法

『みなし解散』から会社を復活させる方法

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

相続・遺言を含めた生前対策と会社の登記を専門とした司法書士事務所です。

堺での相続相談は司法書士事務所Mayまで。

「うちの会社が、解散…!?」ある日、会社の登記簿謄本を見てみたら、そんな信じられない文字が書かれていた——。これは、長年まじめに事業を続けてきた経営者の方にとって、まさに青天の霹靂でしょう。でも、実はこれ、決して他人事ではありません。「みなし解散」という制度によって、社長が知らない間に会社が法律上「解散したことにされてしまう」ケースは、意外と多く発生しているのです。

でも、この「解散」という言葉を見て、すぐに諦める必要はありません。多くの場合、これは会社の完全な終わりを意味するわけではなく、正しい手続きを踏めば、会社を元の元気な状態に「復活」させることができます。この記事では、会社を復活させるための「会社継続登記」について、誰にでも分かるように、順を追って丁寧に解説していきます。

まず、言葉の整理をしておきましょう。

・解散: 会社としての営業活動をストップして、財産の片付け(清算)に入る準備段階のことです。この時点では、まだ会社そのものは消えていません 。

・清算: 解散した後、会社の借金を返し、残った財産を株主で分ける作業のことです。

・清算結了: 「清算がすべて終わりました」という登記を法務局に出すと、会社は法律上、完全にこの世からなくなります。こうなると、もう会社を復活させることはできません 。

この記事で説明する「会社継続登記」は、会社が「解散」状態にはあるけれど、まだ「清算結了」には至っていない、まさにそのタイミングで使える復活の呪文のような手続きです 。特に、うっかり「みなし解散」になってしまった会社を救う、唯一の方法と言えるでしょう。

どんな時に会社は復活できる?タイムリミットはいつ?

会社を復活させる「会社継続登記」は、いつでも使えるわけではありません。法律で決められた条件と、絶対に守らなければならない「期限」があります。

1.1 自分たちで「解散」を決めた場合 (任意解散)

株主総会で「一旦会社を解散しよう」と自分たちで決めたケースです。例えば、後継者が決まるまで一時的に会社をお休みさせる、といった場合がこれにあたります。

この場合は、比較的シンプルです。財産の片付けが完全に終わる(清算結了の登記をする)前であれば、いつでも株主総会を開いて「やっぱり会社を続けよう!」と決めれば復活できます。

1.2 知らない間に解散させられていた!「みなし解散」

これが一番注意が必要なケースです。法務局が「この会社、長いこと登記の変更がないけど、もう活動していないのかな?」と判断し、自動的に解散の登記をしてしまう制度です。

  • 対象となる会社: 株式会社の場合、最後の登記から12年が経つと、この対象になります 。一般社団法人などでは5年です 。役員の任期は最長10年にできますが、任期が終わった後の「同じ人が続けますよ」という登記(重任登記)を忘れていると、12年なんてあっという間に過ぎてしまいます。

同じ人が取締役に就任する場合でも任期は満了いたしますので、必ず登記が必要となることに注意が必要です。最長でも任期は10年ですが、株式会社が「譲渡制限規定のない会社」である場合には任期は2年でとなりますので注意が必要です。

 

  • 絶対に守るべきタイムリミット: みなし解散の登記がされてしまった日から、絶対に動かせない「3年間」というタイムリミットがスタートします。この3年以内に会社を続けるための手続きをしないと、あなたの会社を復活させるチャンスは永遠に失われてしまいます。これは法律(会社法第473条)で決められた、とても厳しいルールです 。

この「3年」という期間は、ただの事務的な締め切りではありません。国から与えられた「最後のチャンス」だと考えてください。国は、12年間動きのない会社をいきなり消してしまうのではなく、まず「みなし解散」というイエローカードを出します。そして、そこからさらに3年間の猶予を与えて、「本当に事業を続ける気はないんですね?」と最終確認をしているのです。この間に何もしなければ、「この会社はもう続ける意思がない」と見なされ、復活への扉が固く閉ざされてしまうのです 。

代表取締役の個人の住所宛ての過料通知が届いたら登記が遅れている可能性が高いです!

1.3 復活が不可能なケース

会社が倒産(破産)したり、裁判所から「解散しなさい」と命令されたりした場合は、残念ながら株主の意思で会社を続けることはできません。

これらは、会社の財政状態が非常に悪いなど、深刻な問題を抱えているため、まずは財産の片付けを優先させる必要があるからです。

みなし解散を放置する本当の怖さ

「登記簿の上で解散になっているだけで、事業は普通に動いているから平気」——そう考えるのは、非常に危険です。みなし解散は、ただの記録上の変更ではなく、あなたのビジネスに現実的で、深刻なダメージを与えます。

信用ゼロ!ビジネスチャンスが目の前で消える

登記簿は、あなたの会社が法的に存在することを証明する、唯一の公的な証明書です。ここに「解散」と書かれていることは、社会的な信用を完全に失うことを意味します 。その結果、様々なチャンスが水の泡と消えていきます。

  • M&Aや投資話がパーに: 会社を買いたい、あるいは投資したいという企業は、必ず会社の身元調査(デューデリジェンス)で登記簿を確認します。その時に会社が解散状態だと分かれば、その話は即、ご破算になるでしょう 。
  • 融資や補助金が受けられない: 銀行からの融資や、国・自治体の補助金を申し込んでも、申請する会社自体が法律上「解散している」状態では、審査のテーブルにすら乗せてもらえません。

なぜこんなことが起きるのか?それは、銀行も取引先も投資家も、みんな「登記簿」という公的な記録を信じて動いているからです。登記簿に「解散」と書かれた瞬間、彼らはあなたの会社を「もうすぐ無くなる会社」として扱わざるを得なくなり、取引停止などの防衛策を取るのです。みなし解散は、ただの「書類上の問題」ではなく、あなたのビジネスを外側から強制的に止めてしまう、現実的な脅威なのです。

みなし解散では印鑑証明書の取得はできません。

みなし解散の事業年度に関する法人税申告も必要です。

清算期間(みなし解散後でも)株式の譲渡は可能です。※ただし自己株式の取得はできません。

余計な手間とペナルティ

  • 罰金(過料)の可能性: 法律で決められた登記をサボっていると、代表者個人に対して、裁判所から100万円以下の過料というペナルティが課されることがあります 。これは罰金であり、法律違反に対する制裁金です。

※100万円以下の過料といっても100万円課せられる可能性は低いです。実際は、弊所の体験ですと1年懈怠で3~4万円、5年懈怠で10万円ほどの印象です。これは裁判所により決定されますが、明確な基準は公表されていないため不明です。

  • 面倒な税金の申告: 解散状態でも、税金を納める義務はなくなりません。むしろ、事業年度の区切りが変わるなど、税金の申告が普段より複雑になります。税理士さんにお願いする追加の費用もバカになりません。

※税務申告も通常と異なるため、司法書士としては税理士と連携しながら手続きをする必要があります。登記のみで完結しないことに注意が必要です。

会社復活のための登記手続きについて

では、具体的にどうすれば会社を復活させられるのでしょうか?手続きは大きく2つのステップに分かれています。

3.1 ステップ1:株主みんなで「会社を続ける!」と決める(株主総会決議)

すべての始まりは、会社のオーナーである株主の意思決定です。会社を復活させるには、まず株主総会を開いて、正式にその意思を決める必要があります。

  • 条件1:「特別決議」という特別な方法で決める: 会社を解散状態から復活させるのは、とても重要な決定です。そのため、普通の決め方よりも厳しい条件が課せられます。具体的には、議決権の半分以上を持つ株主が出席し、その場の3分の2以上の賛成が必要です。これを「特別決議」と呼びます。
  • 条件2:新しい経営メンバーを決める: 会社が解散すると、それまでの社長(代表取締役)や役員(取締役)は、法律上、全員クビになった扱いになります。そのため、会社を続けると決めるのと同じ株主総会で、新しい役員を選び直し、誰が社長になるのかも決める必要があります。もちろん、解散前と同じ人が再び役員になることも可能です。

3.2 ステップ2:管轄法務局に「復活します!」と届け出る(登記申請)

社内で復活が決まったら、そのことを法務局に届け出て、公的に認めてもらう必要があります。ここにも、とても短い期限があるので注意してください。

・2週間という短期決戦: 株主総会で「会社を続ける」と決議した日から、2週間以内に法務局へ登記の申請をしなければなりません 。これは、みなし解散の復活リミットである「3年」とは別の、手続き上の厳しい締め切りです。※これは会社継続に限らず、登記の期間は2週間であることに注意が必要です。

・みなし解散の場合の特別ルール: みなし解散からの復活は、少しだけ手続きが複雑です。みなし解散の場合、法務局は解散の登記はしますが、財産整理を担当する「清算人」までは決めてくれていません。そのため、会社を続ける登記の前提として、まず「清算人」の登記も同時に行う必要があります。実際には、以下の3つの登記を1セットにして、一度に申請するのが一般的です。

1.清算人が就任しました、という登記(法定清算人)

  1. ※この法定清算人は解散時点の取締役が就任することになります。ただし、長期間登記がされていない場合取締役が逝去している場合もあるため注意が必要です。
  2. 2. 会社継続登記
  3. 3.同時に取締役の就任登記等(会社に応じて異なる)

※なお、法定清算人(取締役)が亡くなっている場合には、任期満了前か任期満了後に死亡しているかによりお手続きがことなります。

①任期満了前に死亡している場合→死亡の登記

②任期満了後に死亡している場合→任期満了時点の退任の登記

3.3 表1:必要書類カンタンチェックリスト

登記申請には、以下の書類が必要です。司法書士のような専門家にお願いすれば、ほとんどの書類は代わりに作ってもらえます。

書類名 何のための書類?
登記申請書 法務局に「こんな登記をお願いします」と伝えるための表紙。登記申請内容が記載されています。
株主総会議事録 「会社を続けること」や「新しい役員」が決議されたことを記載していまうs。
株主リスト 株主の情報をまとめたリスト。決議が正当であることを裏付けます。
取締役会議事録 新しい社長を、株主総会ではなく役員同士の話し合い(取締役会)で決めた場合に必要。※取締役会を置く場合
就任承諾書 新しく役員になった人たちが「役員になることを承知しました」とサインした書類。
印鑑証明書 新しい役員個人の実印が本物であることを証明する書類。機関設計によって誰の分が必要か変わります。
本人確認証明書 印鑑証明書がいらない役員について、運転免許証のコピーなどで本人確認をします。
定款(ていかん) みなし解散の場合に必要。会社の基本的なルールブックです。清算人についてのルールが書かれていないか確認するために提出します。
印鑑(改印)届書 解散すると会社の印鑑登録も消えてしまうことが多いので、会社の実印を法務局に再登録するための書類。
委任状 司法書士など、手続きを代行してくれる専門家にお願いする場合に必要。

費用はどれくらい?復活にかかるお金の話

会社を復活させるには、もちろん費用がかかります。大きく分けると、国に納める税金(登録免許税)と、専門家報酬の2種類です。

4.1 国に納める税金:登録免許税

登記を申請するときに、法務局に支払う税金です。収入印紙を買って申請書に貼る形で納めます。みなし解散からの復活で、一般的なケースだと以下のようになります。

  • 清算人の就任登記:9,000円
  • 会社継続の登記:30,000円
  • 役員変更の登記:10,000円(資本金1億円以下の場合)
  • (もし必要なら)取締役会を置く登記:30,000円

これらをまとめて申請すると、合計で49,000円から79,000円くらいの税金がかかります。

4.2 司法書士報酬

  • 弊所報酬の目安: 150,000円 〜 200,000円 ※手続き内容により異なります。

みなし解散からの復活は、通常の手続きよりやることが多いので、報酬は少し高めになる傾向があります 。

 

登記が終わったら必要な手続き

無事に会社継続の登記が完了しても、まだ終わりではありません。関係各所に「会社が復活しましたよ」と知らせて、管理体制を整える必要があります。

5.1 税務署などへの届け出

登記が完了したら、すぐに税務署、都道府県税事務所、市区町村役場へ「異動届出書」という書類を提出しましょう。これは、「うちの会社、解散状態から復活して、また活動を始めました」と税金の担当部署に正式に知らせるための手続きです。新しくなった会社の登記簿謄本を添えて提出します 。

5.2 税金の申告についての注意点

税金の計算上、少しややこしい点があります。事業年度が始まってから、みなし解散の登記がされた日までの期間は、「解散事業年度」という特別な期間として扱われます。この期間についても、きちんと確定申告をする必要があります。

会社が復活した後の事業年度の区切り方や、この解散事業年度の申告など、税金の扱いは複雑になりがちです。登記の手続きと同時に、必ず顧問の税理士さんにも相談して、正しい申告を行うようにしてください。

結論:手遅れになる前に、今すぐ行動を!

「みなし解散」は、登記の更新をうっかり忘れてしまった、すべての会社に起こりうる現実的なリスクです。しかし、法律は、それに気づいた経営者に「3年間」という、やり直しのための貴重な時間を与えてくれています。このチャンスを逃さなければ、会社を完全に元の状態に戻し、あなたが築き上げてきた事業と信用を守ることができます。

もし、この記事を読んで「うちの会社は大丈夫かな?」と少しでも不安になったら、まずやるべきことは一つです。自社の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して、その内容を確認してください。 もしそこに「会社法第472条第1項の規定により解散」という一文を見つけてしまったら、一刻も早く登記の専門家である司法書士に相談しましょう。専門家と一緒に状況を正確に把握し、3年という限られた時間の中で、会社復活への確実な一歩を踏み出すこと。それが、あなたの会社を守るための、最善の道です。

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1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。
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