【司法書士が解説】相続放棄したら終わりじゃない?手続き後にやるべき事と注意点を堺市の専門家が徹底ガイド

【司法書士が解説】相続放棄したら終わりじゃない?手続き後にやるべき事と注意点を堺市の専門家が徹底ガイド

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

はじめに

「多額の借金を残して親が亡くなったため、相続放棄を検討している」
「相続トラブルに巻き込まれたくないので、相続放棄をしたい」

相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も一切引き継がないための重要な法的手続きです。家庭裁判所で「相続放棄申述受理通知書」を受け取った瞬間、肩の荷が下りて安心される方も多いでしょう。

しかし、本当に「これで全て終わり」なのでしょうか?

実は、相続放棄が受理された後にも、知らずにいると重大なトラブルに発展しかねない、いくつかの注意点が存在します。このコラムでは、相続放棄を無事に終えた方が次に何をすべきか、どのような点に注意すべきか、そして万が一の際にどこに相談すればよいのかを、堺市の司法書士が詳しく解説します。

相続放棄の基本と「次順位の相続人」への影響

まず、相続放棄がどのような効果を持つのか、そしてそれが他の親族にどう影響するのかを正確に理解しておくことが、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。

相続放棄の効果とは?

家庭裁判所で相続放棄申述が受理されると、その人は「初めから相続人ではなかった」とみなされます。これは、単に財産を「受け取らない」という意思表示ではなく、法律上の相続権そのものを失うことを意味します。

相続権は「移動」する

ここが最も重要なポイントです。ある人が相続放棄をすると、その人の相続権は次の順位の相続人に移ります。

順位 対象者 具体例
第1順位 子、またはその代襲相続人(孫など) 子が全員相続放棄すると、第2順位の父母に相続権が移る。
第2順位 直系尊属(父母、祖父母など) 父母も既に亡くなっているか相続放棄すると、第3順位の兄弟姉妹に相続権が移る。
第3順位 兄弟姉妹、またはその代襲相続人(甥・姪) 兄弟姉妹も相続放棄をすれば、ようやく相続人がいなくなる。

例えば、亡くなった方に多額の借金があり、その配偶者と子が相続放棄をしたとします。これで終わりではありません。次に亡くなった方の父母(第2順位)が相続人となり、借金を返済する義務を負う可能性があるのです。父母も放棄すれば、次に兄弟姉妹(第3順位)へと相続権が移っていきます。

【根拠法】
民法第939条(相続の放棄の効力)では、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と規定されています。これにより、次順位の者が相続人となる法的効果が発生します。

【要注意ケース】配偶者がいて、子が全員相続放棄した場合

相続放棄で特に注意が必要なのが、このケースです。多くの方が「夫が亡くなり、子供たちが全員相続放棄すれば、残った妻が全ての財産を相続できる」と誤解されていますが、これは大きな間違いです。

正しくはどうなるのか?

子が全員相続放棄をすると、第1順位の相続人がいなくなります。その結果、相続権は「残された配偶者」と「次順位の相続人(故人の父母、祖父母など。もし亡くなっていれば、故人の兄弟姉妹)」に移ります。

  • ケース1:故人の親が健在な場合→ 相続人は「配偶者」と「故人の親」になります。
  • ケース2:故人の親は亡くなっているが、兄弟姉妹がいる場合→ 相続人は「配偶者」と「故人の兄弟姉妹」になります。

この場合に起こりうるトラブル

  • 予期せぬ共同相続人の出現:残された配偶者は、これまであまり付き合いのなかった、あるいは疎遠だった義理の親や兄弟姉妹と、遺産分割について話し合わなければならなくなります。
  • 借金問題の拡大:借金があるために子が相続放棄した場合、その借金の返済義務が義理の親や兄弟姉妹に移ってしまいます。その事実を伝え、彼らにも相続放棄をしてもらうようお願いする必要があり、精神的な負担は計り知れません。
  • 不動産の共有問題:自宅不動産などを巡って、義理の親族と共有関係になり、売却や管理方針で意見が対立する可能性があります。

子が相続放棄を考える場合は、その結果、残された配偶者と他の親族がどのような関係になるのかを事前にしっかりと理解し、家族間で話し合っておくことが極めて重要です。また、相続放棄をしたとしても親族には通知されません。トラブルを防ぐためにも、相続放棄をした場合には連絡をすることをおすすめしています。

【重要】相続放棄後に絶対にしてはいけない3つのこと

相続放棄が受理された後に、うっかり財産を処分してしまうと、相続放棄が無効(正確には「法定単純承認」とみなされる)となり、借金を背負うことになる可能性があります。

1. 遺産の処分・隠匿・消費

  • やってはいけない例
    • 故人の預貯金を解約して使う
    • 故人名義の不動産や自動車を売却・解体する
    • 故人の形見分けとして、高価な貴金属や骨董品を持ち帰る
    • 携帯電話やNHK等の契約を解約する(相続放棄をすれば支払い義務はありません)
    • 税金の還付を受ける
  • 例外:故人の葬儀費用を故人の財産から支払うことは、社会通念上相当な範囲であれば認められることが多いですが、注意が必要です。相当な範囲の判断は困難であるため基本的には故人の財産から葬儀費用を支払うことはおすすめしません。

2. 故人の借金の支払い

良かれと思って故人の借金の一部を返済してしまうと、「相続する意思がある」とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。債権者から督促が来ても、支払ってはいけません。相続放棄済みであることを伝えるのみにとどめることをおすすめします。

債権者からの連絡が、払う意思がある旨は決して伝えてはいけません。債務を承認したことになり相続放棄ができなくなる可能性があります。しかし、何が承認にあたるかは難しいところですので「相続放棄をしている(した)」のみ伝えることをおすすめしています。

3. 遺産分割協議への参加

相続放棄をした人は、もはや相続人ではありません。そのため、他の相続人が行う遺産分割協議に参加して、署名や押印をしてはいけません。

【根拠法】
民法第921条(法定単純承認)では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときや、相続放棄後に財産を隠匿・消費したときには、単純承認(全ての財産と借金を相続すること)をしたものとみなすと定められています。

4.そもそも関与しないことが1番

やってもよいこと、やってはいけないことは専門家でも判断に迷う場合があります。そのことを勘案すると、故人に関することに一切関与しない。これが1番です。これくらいならいけるかな、ばれないかな…という判断はおすすめしません。後から発覚した場合にリスクを負うのはあなた自身になります。故人に関する一切に関与しない。そのように行動することをおすすめいたします。ただし、次の記載する内容の注意点もあります。

相続放棄後の「相続財産管理義務」とは?

「相続放棄したのだから、故人の家や財産はもう自分には関係ない」と考えるのは早計です。実は、相続放棄をしても、次に財産を管理すべき人(次の順位の相続人や相続財産清算人)が管理を始めるまでは、その財産の管理を継続する義務が残ります。

例えば、故人が住んでいた空き家を管理せず放置し、倒壊して隣家に損害を与えた場合、相続放棄をしていても損害賠償責任を問われる可能性があるのです。

相続放棄後の「相続財産管理義務」とは?【2023年4月法改正対応】

「相続放棄したのだから、故人の家や財産はもう自分には一切関係ない」
そう考えるのは自然なことですが、一定の場合には、相続放棄後も財産の管理を続けなければならない義務が残ります。このルールは、2023年4月1日の民法改正により、その内容がより明確になりました。

【法改正のポイント】義務を負うのは「現に占有」している人だけ

今回の法改正で最も重要なポイントは、相続放棄後に財産の保存(管理)義務を負う人が限定されたことです。

新しい法律では、義務を負うのは「相続放棄の時に、その財産を現に占有していた人」のみとなりました。

「現に占有」とは?

これは、法律上の権利があるかどうかではなく、「事実として、その財産を自分の支配下に置いている状態」を指します。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 義務を負う可能性が高い例

    • 亡くなった方と同居していた相続人(家や家財を占有)
    • 亡くなった方の家の鍵を預かっており、自由に出入りできる状態だった相続人
    • 亡くなった方から自動車や貴重品などを預かって保管していた相続人
  • 義務を負わない可能性が高い例

    • 亡くなった方とは遠方に住んでおり、全く関与していなかった相続人
    • 生前から疎遠で、財産の状況を何も知らなかった相続人

この改正により、これまで問題となっていた「財産に全く関与していない相続放棄者まで重い義務を負うのは酷だ」という点が解消され、より現実的なルールとなりました。

いつまで、どのような義務を負うのか?

では、具体的にどのような義務が、いつまで続くのでしょうか。

  • 義務の内容
    法律では「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定められています。これは、財産の価値を積極的に増やすような「管理」までは求められず、財産が失われたり、大きく価値が損なわれたりしないように現状を維持する義務と解釈されます。
  • 義務の期間
    義務が続くのは、「次の相続人」または家庭裁判所が選任する「相続財産清算人」に、その財産を引き渡すまでです。これにより、義務の終わりが明確になりました。

【具体例】空き家になった実家を相続放棄した場合

例えば、堺市内の実家で親と同居していたAさんが、親の死亡後に相続放棄をしたとします。この場合、Aさんは家や家財を「現に占有」していたため、保存義務を負います。

Aさんは、次の相続人(例えば故人の兄弟姉妹)や、後に選任される相続財産清算人にその家を引き渡すまで、空き家が倒壊したり、不審火の原因になったりしないよう、適切に保存しなければなりません。もしこの義務を怠って空き家が倒壊し、隣家に損害を与えてしまった場合、Aさんは相続放棄をしていても損害賠償責任を問われる可能性があるのです。

堺市の場合の空き家相談窓口

ご自身で管理を続けることが困難な場合は、決して放置せず、まずは自治体の専門窓口に相談することが重要です。堺市では「堺市すまい支援課」などが空き家に関する相談窓口を設けています。

【根拠法】
改正民法 第940条第1項
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

相続放棄後の手続きに関するQ&A

Q1. 相続放棄したことを、債権者や次の相続人に伝える必要はありますか?
A1. はい、必ず伝えるべきです。法律上の義務ではありませんが、伝えないとトラブルの原因になります。債権者からの督促を止めるためには、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理通知書」のコピーを送付するのが有効です。また、自分たちが放棄したことで新たに相続人となった親族(故人の父母や兄弟姉妹など)には、速やかにその事実を伝え、彼らが相続放棄を検討する時間的猶予を与えるのが親族間のマナーであり、責務とも言えます。

 

Q2. 生命保険金は、相続放棄しても受け取れますか?
A2. はい、受け取れます。生命保険金は、受取人固有の財産とされ、相続財産には含まれません。したがって、相続放棄をしても問題なく受け取ることができます。

 

Q3. 故人が賃貸マンションに住んでいました。部屋の片付けや家賃の支払いはどうすればいいですか?
A3. 非常に難しい問題です。原則として、相続放棄をした人は大家さん(賃貸人)に対して部屋の原状回復義務や未払い家賃の支払い義務を負いません。しかし、家財道具を勝手に処分すると「財産の処分」とみなされるリスクがあります。まずは大家さんや保証会社に相続放棄した旨を伝え、対応を協議するのが賢明です。場合によっては、相続財産清算人の選任が必要になるケースもあります。

 

Q4. 全員が相続放棄したら、故人の家や借金はどうなるのですか?
A4. 相続人全員が相続放棄をすると「相続人不存在」の状態になります。この場合、利害関係者(債権者や特別縁故者など)の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。清算人は、故人の財産を現金化して債権者に支払い、残った財産は最終的に国庫に帰属することになります。

 

Q5. 故人が亡くなっていることを、亡くなってから5年後に知りました。3か月以上経っていますが、相続放棄はできますか。
A5.相続放棄可能です。相続放棄には3か月の期限がありますが、この起算日は「相続人であることを知った時から」になります。つまり、4月1日に自分が相続人であることを知った場合、その翌日の4月2日0時時点~7月1日の満了時点(7月2日)が3か月となり、7月1日までに相続放棄をすることが可能です。どのタイミングで知ったかが重要になりますので、もし郵便等で届いた場合には記録を残しておくようにいたしましょう。

まとめ:相続放棄はゴールではなく、新たなスタートです

相続放棄は、借金から逃れるための有効な手段ですが、それは法的な手続きの一つの区切りに過ぎません。その後に発生する次順位の相続人への連絡や、財産の管理義務など、やるべきこと、注意すべきことは意外と多く存在します。

これらの手続きを怠ったがために、後から親族間のトラブルに発展したり、思わぬ法的責任を問われたりするケースも少なくありません。

  • 相続放棄後の親族への連絡方法が分からない
  • 故人の家の管理をどうすればいいか不安だ
  • 債権者から連絡が来て困っている

このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、相続の専門家である司法書士にご相談ください。
私たち司法書士は、相続放棄の手続きそのものはもちろん、その後のアフターフォローまで含めて、皆様が真に安心して次の生活へ踏み出せるようサポートいたします。

司法書士事務所Mayでは、堺市を中心に相続に関する初回のご相談を無料で承っております。相続放棄という重大な決断をされた皆様の不安に、最後まで寄り添います。どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

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中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友

 

1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。
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