配偶者を取締役に入れるべきか?―士業が押さえるべき家族経営の落とし穴

配偶者を取締役に入れるべきか?―士業が押さえるべき家族経営の落とし穴

~堺市で相続手続きをお考えの方へ、司法書士が詳しく解説~

大阪の堺の司法書士の植田麻友です。

弊所は南海堺東駅が最寄りの司法書士事務所です。

はじめに|なぜ配偶者を取締役に選ぶのか?

中小企業や個人事業から法人化した直後の会社では、配偶者を取締役に据える例が多数見受けられます。理由は様々で、「信頼できる身内だから」「節税対策になる」「設立に必要な人数を満たすため」「外部に知られたくないから形式だけ」などが挙げられます。

一方で、身内だからこそ意思疎通の不一致が表面化しにくく、法律上の義務やリスクを軽視したまま役員として登記されることも珍しくありません。とりわけ、取締役は単なる「名義」では済まされない法的義務と責任を負います。士業として顧問先を支援する際には、この構造的なリスクを整理した上で助言すべきでしょう。

取締役の任期管理と職権解散リスク

配偶者を名ばかりの取締役に据えたまま放置してしまうと、まず問題になるのが「任期管理」です。

会社法では、取締役の任期は原則として2年(公開会社)、非公開会社では最長10年まで延長可能と定められています(会社法332条)。しかし、延長した場合でも定款への記載が必要であり、任期満了後の登記がされていなければ、登記懈怠による過料(最大100万円)を受ける可能性があります。

さらに、長期間役員変更登記を怠っていると、最悪の場合、会社が 職権で解散 されるリスクすら存在します(会社法472条)。これは実務的にも深刻な問題で、2024年の商業登記制度の改正以降、 12年間登記をしていない株式会社は強制的に解散処分の対象 になります。

取締役の任期については、コスト面を考えると最長の10年にすることにメリットがありますが、その10年の間のどのような事件が起こるか分かりません。そのため、最長10年に不安がある場合には、5年や4年等少し短くすることもおすすめです。

【定款記載例】

(取締役の任期)

第〇条 取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

2 補欠または増員により選任された取締役の任期は、前任者またはその選任時に在任する取締役の任期の満了すべき時までとする。

解任と辞任の違いと経営への影響

「辞任」と「解任」は同じように役職から外れる行為のように思われがちですが、法的意味合いは大きく異なります。

・辞任 :本人の自由意思により退任(辞任届の提出のみで成立)

・解任 :株主総会決議による強制的な退任(会社法339条1項)

解任は 会社都合 であるため、解任をしたことに「正当な理由」がない場合には、損害賠償請求の対象 となり得ます。これは役員報酬の残期間分などを請求される可能性を意味し、判例上も 数百万円〜1,000万円を超える請求 が認容された事例があります。

また、配偶者の意思で「辞任した」と主張されても、後に「自分は辞任していない。会社に不当に解任された」と争われると、経営者側の負担は一気に高まります。

解任の決議を行う場合には、後々紛争になる可能性も考慮し、弁護士にも相談した上で株主総会を開催することをおすすめしてます。しかし、それでも損害賠償のリスクは排除できないため、基本的には辞任の登記をおすすめしております。

なお、解任ではなく、株主総会で定款の取締役の任期を短縮して任期満了退任をさせる方法もあります。

この場合、登記簿には「退任」と表示されるので一見して解任ではないのですが、前述の損害賠償請求については免れることができないことに注意が必要です。

解任のリスクと損害賠償請求

配偶者を取締役に据えたものの、後に経営方針や私的な理由で関係が悪化した場合、「解任」という手段を取らざるを得ない場面も出てきます。

このとき、正当な理由なく解任すれば損害賠償請求のリスクが生じます。例えば、役員報酬の残存期間分が未払いの場合、これを理由として500万円を超える損害賠償が認められた判例も存在します(東京高判平成22年9月8日など)。

また、配偶者との間で事前に「無報酬である」「業務実態がない」といった合意がなされていなければ、解任後の紛争に発展する可能性が極めて高くなります。

夫婦関係の悪化が経営に与える影響

家庭内の問題は、会社運営と切り離して考えることが難しい場合があります。特に夫婦関係が悪化した場合、以下のようなリスクが浮上します。

・取締役会や株主総会での意見対立・議事運営の停滞

・役員退任を巡る裁判や仮処分の申立て

・会社情報や顧客情報の漏洩リスク

・業務妨害や従業員への不当な干渉

たとえ配偶者が業務に一切関わっていなかったとしても、法的に「取締役」である以上、辞任・解任・登記の変更には一定の手続きと法的効力が伴います。

株主でもある場合のさらなるリスク

さらにリスクが増すのが「配偶者が株主でもある」ケースです。株主には以下のような強い権利があります。

  • 株主総会における議決権(1株1票)
  • 帳簿閲覧請求権や剰余金の配当請求権
  • 役員選任・解任に関する議決権

たとえ代表取締役を辞任させたとしても、議決権の過半数を配偶者が有していれば、再び取締役に選任されることも可能です。

また、相続が発生した場合には配偶者の株式が他の親族に分散する可能性もあり、事業承継にも大きな影響を及ぼします。

配偶者を取締役に加入させることは珍しくありませんが、そのような会社でも株式を配偶者に保有させることはおすすめしておりません。リスクを理解した上での株式保有は選択肢のひとつかもしれませんが、基本的には保有することで権限が大きくなるため、おすすめはしておりません。それでも保有する場合には、将来の紛争に備えて株主間契約を締結する等対策をとることをおすすめいたします。

まとめと予防策

配偶者を取締役に入れることは、表面的には信頼と節税というメリットがあるように思えます。しかし実務上は、

  • 任期管理の放置
  • 解任時の損害賠償
  • 家庭問題の経営への波及
  • 株主としてのコントロールリスク

といった深刻なリスクが多く存在します。これらを避けるためには、次のような予防策が有効です。

①登記前に配偶者との間で「辞任の意思」や「無報酬」の合意書を作成

②持株比率を経営者側に固定し、議決権をコントロール。

③株主間契約の締結

④登記のタイミングを明確にし、登記懈怠を防止

⑤司法書士と顧問契約を結び、登記義務を漏れなく管理

司法書士に相談する意義

配偶者を取締役に入れるか否かは、単なる家族の話ではなく、会社の経営権・財務・法的安定性に深く関わる判断です。

士業の立場であっても、自身の法人設立やクライアントへの助言において、 「登記をすれば終わり」ではない ことを意識する必要があります。

家庭と経営の線引きに迷った際は、経験豊富な司法書士に相談することで、将来的なリスクを最小限に抑えることが可能です。

関連動画

関連記事

あわせて読みたい
昔ながらの会社の定款、大丈夫?~堺市の司法書士が教える「あるある」注意点と見直しのすすめ~ 昔ながらの会社の定款、大丈夫? ~堺市の司法書士が教える「あるある」注意点と見直しのすすめ~ 大阪の堺の司法書士の植田麻友です。 弊所は南海堺東駅が最寄りの司法...
あわせて読みたい
【堺の司法書士が解説】取締役の増員・補欠選任を正しく進めるには ~登記・定款・会社法をふまえた実務... 【堺の司法書士が解説】取締役の増員・補欠選任を正しく進めるには ~登記・定款・会社法をふまえた実務のポイント~ 大阪の堺の司法書士の植田麻友です。 弊所は南海堺...

 

 

当事務所のご案内

私が記事を書きました。

中小企業をを元気にする活動をしています!!

司法書士・行政書士/植田麻友

1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。現在は、大阪府堺市で司法書士事務所を開業し、相続・法人(商業)登記をメインに活動をしています。
お問い合わせはこちら

SHARE