株式会社設立登記時の「商号」の決め方|商標・不正競争防止法にも注意!!
■ 1. はじめに
会社を設立する際に最初に悩むことのひとつが「商号(会社の名前)」の決定です。
商号は法人登記に記載される正式な名称であり、企業の顔ともいえる存在です。
一度登記すると簡単には変更できないため、慎重な検討が必要です。
この記事では、商号の決め方について、法的ルール、使える文字、登記上の制限、商標との関係、不正競争防止法との関係、裁判例までを包括的に解説します。
■ 2. 商号とは?
商号とは、法人が営業活動を行うための「法律上の名前」です。
株式会社であれば、「〇〇株式会社」「株式会社〇〇」といった形で「株式会社」の文字を含めた名称になります。
商号は、登記簿謄本、契約書、請求書、銀行口座など、会社のあらゆる場面で使われるため、信頼性や独自性が問われる要素でもあります。
■ 3. 商号を決める際の基本ルール(法務省基準)
3.1 使用できる文字・記号
法務省が定める商号の使用可能な文字は以下の通りです。
【使用可能な文字】
- 漢字
- ひらがな
- カタカナ
- ローマ字(大文字・小文字)
- アラビア数字(0~9)
【使用可能な記号】
- 「&」(アンパサンド)
- 「’」(アポストロフィー)
- 「,」(コンマ)
- 「‐」(ハイフン)
- 「.」(ピリオド)
- 「・」(中点)
※記号は字句の区切りに限って使用可。商号の先頭や末尾への使用は制限されています(一部例外あり)。
3.2 使用できない言葉
以下のような語句は商号に使用できません:
- 公序良俗に反する言葉:暴力的・差別的・わいせつな表現
- 資格がないのに誤解させる表現:「弁護士」「税理士」など、法律上の資格や登録が必要な語句
- 許認可業種の誤認表記:「銀行」「信託」など、特別な許可が必要な語句
- 官公庁や公共機関を連想させる語句:「内閣府」「国土交通省」「消防署」など
これらを使用すると登記申請が却下されるか、最悪の場合、詐称と判断されるリスクがあります。
3.3 「株式会社」の表記義務
商号には「株式会社」の文字を必ず含める必要があります。
「株式会社〇〇」「〇〇株式会社」のどちらでも構いません。
■ 4. 同一住所・同一商号の禁止と例外的な扱い
4.1 原則:同一住所・同一商号は不可
会社法および商業登記規則により、同一の所在地に、同一の商号を持つ会社を登記することはできません。
これは、取引先や第三者の混乱を防ぐためのルールです。
【例】
東京都港区赤坂1-1-1に「株式会社サクラ」が登記されている場合、同じ住所にもう一つ「株式会社サクラ」を設立することはできません。
4.2 例外:実質的に異なると認められる場合
以下のように、住所が形式上は同じでも、実質的に異なる区画や部屋であることが明確であれば登記が認められることがあります。
【同一住所の判断】
- 東京都渋谷区恵比寿1-2-3 東京ビル201号 → 既存会社
- 東京都渋谷区恵比寿1-2-3 東京ビル202号 → 新会社(同一商号でも登記できる)
- 東京都渋谷区恵比寿1-2-3→新会社(同一商号で登記できない)
上記の場合、部屋番号の記載がないですが、部屋番号なくビル全体の記載がある場合には同一と判断されます。
ただし、商号の同一性が疑われる場合、法務局の判断により却下されるケースもあるため、事前の相談や照会が重要です。
4.3 商号の「同一性」の判断とは?
見た目や文字が少し異なっていても、以下のような違いは「同一」とはみなされません。
- 大文字/小文字の違い:「株式会社abc」と「株式会社ABC」
- 記号の違い:「株式会社A&B」と「株式会社A and B」
- 株式会社の位置が異なる:「A株式会社」と「株式会社A」
- 会社の種類が相違する:「A株式会社」と「A有限会社」
見た目が異なっていても、読み方や印象がほぼ同じ場合は、商標上の問題があるため注意が必要です。
■ 5. 商標との違いと注意点
5.1 商号と商標の違い
項目 | 商号 | 商標 |
---|---|---|
管轄機関 | 法務局 | 特許庁 |
登録目的 | 法人の正式名称 | 商品・サービスのブランド名 |
効力範囲 | 登記上は全国(実務では地域) | 登録範囲内で全国的に保護 |
権利内容 | 商号の独占的使用 | 商標の専用使用権、差止請求権 など |
商号が他者の登録商標と重複していた場合、登記は可能でも、商標権侵害として損害賠償や使用差止を求められる可能性があります。
■ 6. 不正競争防止法との関係と裁判例
6.1 不正競争防止法とは?
不正競争防止法は、公正な競争を守るために設けられた法律です。
商号やブランドを模倣して、他社の商品・サービスと混同させたり、利益を横取りする行為を禁止しています。
6.2 主な不正競争行為(商号に関係するもの)
- 周知表示混同惹起行為(第2条1項1号)
他人の商号や商品名と類似した名前を使って混乱を生じさせる行為 - 著名表示冒用行為(第2条1項2号)
有名なブランド・商号を利用して利益を得ようとする行為
6.3 裁判例
【マリカー事件(任天堂 vs カート業者)】
任天堂の人気キャラクターを模した衣装で公道カート事業を展開していた業者に対して、不正競争防止法違反に基づく差止・損害賠償が認められた事例です。
→ 周知性・著名性があるブランドの模倣は、強く保護される。
【ルイ・ヴィトン事件】
「ルイ・ヴィトン」の著名な商標を模倣した商品を販売した業者に対し、著名表示冒用行為が認定され、損害賠償命令が出された判例。
→ 商号に限らず、似た名称・ロゴの使用でも厳しく判断される傾向にあります。
■ 7. 商号決定時の実践的チェックリスト
■ 8. まとめ|専門家とともに安心なスタートを
商号は、会社の信用・ブランドの出発点です。
しかし、単に登記できるだけでは不十分であり、商標や不正競争防止法との整合性も求められます。
特に、以下のような場合は司法書士・弁護士などの専門家へ相談することを強くおすすめします。
- ✔ 商号の調査が不十分で不安がある
- ✔ 同一住所で似た商号の会社が存在する
- ✔ 他社と似た業種・名称でビジネスを展開する予定がある
法的なトラブルを避け、長く使える「よい商号」で、安心してビジネスをスタートしましょう。
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!
司法書士・行政書士/植田麻友
1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。経営者とその家族まで支援できる企業・事業承継支援を行う。 |
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