株式会社設立時に資本金を1円にしてはいけない理由
司法書士の植田麻友です。株式会社設立時には資本金の金額についてのご質問を受けることが多いです。資本金に関しては法的に可能である金額と、実際に経営をしていくことを考えると好ましい金額に乖離があるため、専門家を交えず設立登記をした場合に、後から資本金の金額を変更するこということは珍しくありません。
そういったことが起こらないように、資本金の金額の定めにあたっての注意点を書かせていただきました。
1. 資本金とは何か?
資本金とは、会社を作るときに最初に用意するお金のことです。このお金は、会社の運営資金となり、取引先や銀行に対して「この会社はしっかり運営できる」という信用を示す役割を持っています。資本金は、履歴事項全部証明書(謄本)に記載されるため、誰でも確認することが可能です。
2. 会社を1円で作れるって本当?
日本の法律では、理論上「資本金1円」で株式会社を作ることができます。昔は株式会社を作るには最低1,000万円の資本金が必要でしたが、法律が変わり、1円でも設立できるようになりました。1円も当然ですが、10円・1万円でも可能です。99万9,999円という細かい数字でも可能です。
3. なぜ資本金1円はダメなのか?
(1) 信用を得にくい
会社は、取引先や銀行とお金のやり取りをします。そのとき、資本金1円の会社では「すぐにつぶれてしまうかも」と思われ、取引を断られる可能性が高くなります。特に、銀行からお金を借りるときや、大きな契約を結ぶときに不利になります。会社法(会社法第25条)では、会社の存続能力や財務状況の透明性が求められており、資本金が少なすぎるとその要件を満たしにくくなります。
金融機関の視点では、融資を検討する際に「会社が事業を続けられるか」が重要な要素になります。資本金1円の会社では、自己資金がほとんどないため、事業が行き詰まった際の対応力が低く、融資を受けるのは極めて困難です。また、取引先も「この会社に支払い能力があるのか?」と不安に感じ、契約を見送る可能性が高くなります。銀行口座の開設すらできない可能性があり、その場合には事業の継続が著しく難しくなるでしょう。
(2) 事業資金が足りなくなる
会社を運営するには、事務所の家賃や人件費、商品の仕入れなど、さまざまな費用がかかります。資本金が1円では、すぐにお金がなくなってしまい、運営が行き詰まる可能性が高くなります。特に、会社設立直後は売上が安定しないため、資本金が十分でないと短期間で資金ショートするリスクが高くなります。株式会社の設立登記をご自身でするにしても、実費は約20万円かかります。資本金が1円の場合、この時点で赤字です。取締役自身の資金を使用することになるだろうと考えますが、そうであれば初めから資本金として会社に入れておけばよいのです。
取引先の視点では、発注先が資金的に余裕がないと支払い遅延や倒産リスクが高まり、安心して取引できません。資本金が少ない会社は「契約途中で支払いができなくなるかもしれない」と判断され、大手企業との取引が難しくなります。
(3) 設立後の税金負担
会社は、たとえ利益が出ていなくても毎年「法人住民税」という税金を払わなければなりません。資本金が1,000万円未満の会社でも、最低7万円の税金がかかります。資本金1円で会社を作った場合、最初の年にこの税金すら払えない状況になりやすいです。税法上、法人税の申告義務も発生するため、税理士費用や会計処理の手間もかかります。
(4) 社会保険の加入義務
株式会社を作ると、基本的に社会保険(健康保険や厚生年金)への加入義務が発生します(健康保険法第3条、厚生年金保険法第6条)。社会保険料の負担は会社と従業員が半分ずつですが、資本金1円の会社では、この負担を支払う余裕がなくなる可能性があります。
(5) 会社の存続が難しい
資本金が少なすぎると、会社を長く続けることが難しくなります。特に創業初期は売上が安定しないことが多く、最初の運転資金が不足すると、あっという間に資金繰りが苦しくなります。また、取引先からの信用を得にくいため、新規の取引先を開拓する際にも困難が伴います。
金融機関や取引先は、相手企業の決算書を確認し、財務の安定性を判断します。資本金が少ないと「この会社は経営基盤が弱い」と判断され、取引を避けられることが多くなります。
(6) 会社清算時のリスク
会社を設立したものの、資金不足で事業が行き詰まった場合、会社を清算する必要があります。しかし、債務超過の場合は破産手続き(会社法第475条)を取ることになり、設立者が個人保証を求められることもあります。資本金が1円の会社では、設立当初から資金的な余裕がないため、事業が失敗するとすぐにこのリスクに直面します。
4. では、資本金はいくらにすべき?
資本金はいくらにすればよいかは、事業内容や計画によりますが、一般的には最低でも100万円程度は用意したほうがよいとされています。これなら、事業の初期費用を賄いながら、最低限の信用を得ることができます。
金融機関からの融資を受ける場合や、大手企業との取引を目指す場合、300万円以上の資本金を用意することでより安定した経営をスタートできるでしょう。
一方で、許認可が必要な事業の場合には、その許認可を得る場合に財産要件がある場合があります。下記は一例となります。
業種 | 必要資本金 | 根拠法令 |
---|---|---|
建設業 | 500万円以上 | 建設業法第3条 |
人材派遣業 | 2,000万円以上 | 労働者派遣法 |
宅地建物取引業 | 1,000万円以上 | 宅地建物取引業法 |
金融業(貸金業) | 5,000万円以上 | 貸金業法 |
旅行業 | 3,000万円以上 | 旅行業法 |
5. まとめ
株式会社は理論上1円でも作ることができますが、実際には資本金1円では運営が難しく、信用を得ることもできません。金融機関や取引先からの信用を得て安定した事業を行うためには、しっかりとした資本金を用意することが重要です。
株式会社設立に関する費用
実費:登録免許税15万円~+公証人手数料31,120円~(※資本金の金額により変動いたします)
1.ー1 商標侵害調査を行う場合 1万円(税込) ※弁理士の方へ依頼いたします。
2.代表取締役住所非表示措置(配達証明郵便の送付を行う場合) 66,000円~(+郵便費用実費)
3.代表取締役住所非表示措置(司法書士が本店の実在証明を行う場合)88,000円~
※ただし、2.の場合には会社様とのヒアリングによってお受けできない場合がありますので、ご留意ください。
4.代表取締役住所非表示措置の終了 33,000円~
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!
司法書士・行政書士/植田麻友
1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。経営者とその家族まで支援できる企業・事業承継支援を行う。 |
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