【商業】株式会社の役員変更登記について

株式会社の役員変更登記について

司法書士の植田麻友です。

株式会社は日本で1番多い会社の形態ですが、その中の役員である取締役には必ず任期があります。そのため、株式会社である以上、定期的な役員の登記が必要となっています。今回は役員変更登記の流れから、注意事項についてご案内いたします。

株式会社の取締役の任期について

株式会社の取締役は、定款にて1年から10年の任期が定められています。ただし、単に「10年」としてしまうと改選時期が不明確になることもあり、一般的には下記のように定められています。

第●条 取締役の任期は、選任後●年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

このように定めることで、任期は必ず定時株主総会の開催のタイミングで満了することになります。定時株主総会は、会社法上は毎年開催する株主総会であり、決算の承認を行う株主総会となります。毎年開催するこの定時株主総会の、何年かに1度、取締役の改選を行う必要があるということです。

なお、取締役の任期の傾向としては、

・取締役が1名の会社 10年

・取締役が2~3名の会社※親族経営 10年

・取締役が2名以上の会社※親族経営ではない 2年~5年

と人数が増えるほど任期は短めにすることをおすすめしております。これには理由があります。

取締役の解任に関する損害賠償請求

取締役に辞めて欲しいと思った場合にまず手続きとしておすすめするのが「辞任」手続きになります。これは、辞めて欲しい取締役その人から辞任届をいただくもので、全くもめてないような場合には有用でしょう。しかし場合によっては、取締役本人が辞めることを拒否している場合があります。

この場合、多くの方が「解任」を思い浮かべると思うのですが、解任はあまりおすすめできません。

1.登記簿に解任と記載される

登記簿は取締役の退任事由が記載されるため、明確に「解任」と記載されることになります。この記載は、会社内部でもめていることを社外に示すようなものであり、これにより会社の信用を一定程度損なうことが考えられます。

2.解任された取締役からの損害賠償請求

解任された取締役が役員報酬を支給されていた場合に、解任された取締役は在任期間分の役員報酬を損害賠償をして請求できるという判例があります。これは、解任に「正当な理由」があれば、損害賠償請求はできないとされているのですが、正当な理由というものがそもそも解釈が分かれるものになっています。具体的には、法令違反があった場合・心身の故障があった場合には可能だとされていますが、経営陣や株主との関係悪化といった人間関係では解任の「正当な理由」には当たらないとされています。

2-2.解任ではなく「任期を短縮して」退任させる方法

先述のとおり取締役には任期があります。これは、いつでも定款の変更により変更することが可能です。例えば、任期を10年としていた取締役の任期を5年に変更することも可能です。この場合、すでに就任から5年以上経過していた場合には、この定款変更のタイミングで任期が満了いたします。

つまり、辞めさせたい取締役の任期を短縮すれば取締役を退任させることが可能です。この方法を使用すれば登記簿に「解任」と記載されないため、いささか不自然ではありますが、社外の信用は下がりにくいと考えます。

一方で注意なので、このように短縮した場合でも、前述の損害賠償請求を免れることができませんので、注意が必要です。

 

株式会社の任期の確認方法

例えば、下記のような役員の変更の流れがあった場合には、いつ任期が満了すると考えられるでしょうか。

株式会社MAY(決算:2月末日・取締役の任期が5年)

・令和1年4月30日に取締役に選任された

・令和1年4月30日に5年を+すると、【令和6年4月30日】

・この日数に1番近い(前に戻る)事業年度が【令和6年2月末日】

・【令和6年2月末日】の事業年度の決算承認をする定時株主総会【令和6年4月頃予定】にて取締役の任期が満了する

上記のように計算することが任期が満了しているか確認することができます。取締役が 選任された日は、過去の株主総会議事録で判断可能ですが、多くの場合には、選任された日=就任日となっているため、就任日は登記簿(株式会社の履歴事項全部証明書)で確認が可能となります。

下記のような記載です。

取締役 大 阪 太 郎 令和 1年4月30日就任
令和 1年5月10日登記

この場合、取締役の就任日は、上の【4月30日】になります、下の【5月10日】は法務局に申請した登記の受付日になりますので、任期の計算には不要な数字になります。

なお、取締役の任期・事業年度については、定款に記載がされていますが、登記簿には記載がされていないため、必ず定款の確認をしましょう。

任期がすでに過ぎていた場合

取締役の任期がすでに満了しており、一定期間経過してしまった場合には、代表取締役に対して裁判所より過料の通知が届く可能性があります。通常登記は、その原因の発生の日から2週間以内に登記を行う必要があります。この期間を経過すると、過料の通知が代表取締役の自宅住所宛てになされることになります。

そのため、すでに任期が到来していることに気づいた場合には、できる限り迅速に登記を行う必要があります。なお、すでに任期が経過したいた場合には、議事録の作成も含めて通常と異なりますので注意が必要です。詳細は下記の記事をご参照ください。

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登記や選任を懈怠してた場合の注意点

通常登記は、原因が発生した日(今回の場合は取締役の就任日)から2週間以内に登記を行う必要があります。そして、この2週間を超えると過料の可能性があります。

(過料に処すべき行為)
第九百七十六条 発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、(略)又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。

この過料は100万円以下のものですが、具体的な金額は明示されていません。また、これは代表取締役の個人の住所にて裁判所より通知があるため非常に驚くものとなります。過料により無駄な出費とならないように、取締役の任期は事前に確認しておくようにいたしましょう。

 

取締役の選任手続きに関するQ&A

Q 定款では、取締役の任期は「5年以内に終了する…」と記載があるが、これを10年に伸ばすことは可能か。

A 可能です。株主総会の特別決議により定款変更を行うことで、取締役の任期を伸ばすことができます。この場合、基本的には登記が不要です。ただし、任期を短縮する場合には、場合によっては取締役に任期が満了する可能性がありますので、登記が必要となる可能性もあります。

Q どんな会社でも取締役の任期は10年に伸ばすことができますか。

A 取締役の任期を10年まで伸ばすことができるのは、非公開会社のみです。非公開会社とは、株式に譲渡の制限がついている会社になります。具体的に申しますと、登記簿に下記のような記載がない会社は任期を10年に伸ばすことはできまん。

株式会社の譲渡制限に関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。

上記のような記載がない場合、取締役の任期は最長2年となります。任期を伸長したい場合には、株式の譲渡制限に関する規定の変更(定款変更)を行うようにいたしましょう。

Q 任期が満了していたのに、登記を忘れていた場合はどうすれば良いでしょうか。

A 遅くなっても手続きを行うようにしてください。ただし、任期が満了したにも関わらず株主総会を開催せず、取締役の任期も満了した場合、通常の株主総会とは異なる議案が必要となります。

第●号議案 取締役●名選任の件

議長は、本議案について、取締役の全員が、取締役全員が令和●年3月31日終了の事業年度にかかる定時株主総会の開催されるべき満了日、すなわち、令和●年6月30日をもって任期満了退任したので、これが改選の必要がある旨を述べ、取締役候補者として下記の者を選任したい旨を説明のうえ提案、その賛否を議場に諮ったところ、満場一致をもって承認可決された。

取締役 ●●●●

これは、過去にすでに任期が満了しており、当時株主総会を開催していなかった場合の記載となります。過去の日付を明確にするために、事業年度と開催されるべき満了日を記載しております。必ず、どの時点で任期が満了したか確認する必要があるためです。

Q 取締役の改選を行う場合の登記申請書はどのように記載いたしますか。

A 下記法務省のサイトが非常に分かりやすくなっております。内容により異なりますが基本的な様式はととのっております。

あわせて読みたい
法務省:登記事項の作成例一覧 法務省のホームページです。

Q 新たに取締役を選任する場合の必要書類を教えてください。

A これは株式会社の形態にもよるのですが、

取締役会を置かない会社(以下「取締役会非設置会社」と言います。)の場合には、

新たに就任する取締役は①印鑑証明書1通②個人実印(※捺印いただきます)が必要となります。

また、未成年が取締役に就任する場合には、①親権者の権限が分かる戸籍等②親権者の同意書③親権者の印鑑証明書④親権者の個人実印(※捺印いただきます)が必要となります。印鑑登録がない場合には、早めに行うようにしましょう。なお、印鑑登録もできない未成年の場合には、別途の書類により取締役の就任が可能であると言われております。詳しくは司法書士までの問い合わせをお願いいたします。

Q 未成年でも取締役になることはできますか。

A 未成年でも取締役になることができる場合があります。未成年であること自体が、取締役になれない理由にはなりません。しかし、17歳の未成年と5歳の未成年ではまるで違うように、取締役に就任することはもちろん、職責を理解していることが十分に必要であると考えます。なお、取締役会非設置会社の場合には、取締役の就任に印鑑証明書が必要ですが、多くの自治体では、15歳以上から印鑑登録が可能となっております。しかし、15歳以下であっても印鑑証明書とは異なる代替書類により、取締役に就任することは可能と判断されています。

Q 配偶者を取締役に就任させるメリット・デメリットを教えてください。

A 配偶者を取締役に就任させることは珍しくありません。これは、取締役に就任することで役員報酬を支給することができる点がメリットであると考えます。一方で、取締役が増えるということは、意思決定に関与する人間が増えるということであり、配偶者が実質的に経営に関わらない場合に、形だけの役職を置くことで、従業員に対する影響、また夫婦間でのトラブルが発生した場合に、プライベートの問題が会社に持ち込まれる懸念があります。例)取締役の辞任を離婚時の交渉の材料にされる。

Q 取締役の改選にかかる費用を教えてください。

A 弊所で手続きする場合は下記のとおりです。

 取締役の変更(就任・重任)

報酬:48,400円(税込)~ 登録免許税:10,000円~(※資本金により変動いたします)

※ただし、株主総会の運営サポートも含む場合には100,000円(税抜)~

 定款変更(任期の変更)

報酬;22,000(税込)~

取締役の改選のまとめ

取締役の改選は、株式会社である以上必ず到来するものとなります。これは、司法書士・税理士が管理しているケースもありますが、その旨を含んだ契約をしていない場合には、任期到来を連絡いただけない場合もあります。弊所では、関与したお客様の任期は基本的には管理しておりますが、任期到来時に連絡をした場合に連絡がつかないケースも珍しくはありません。そのため、会社様としては自社で到来時期を管理されることを1番おすすめしております。

もし、管理が難しい場合には、その旨を含んだ顧問契約も可能ですので是非ご相談いただければと存じます。

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司法書士・行政書士/植田麻友

1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。経営者とその家族まで支援できる企業・事業承継支援を行う。

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