合同会社と株式会社の選択の仕方
司法書士の植田麻友です。すでに事業をされている方、あるいは、新たに事業をはじめる方が「法人化」する際の選択肢は、多くは「株式会社」か「合同会社」になると考えます。しかし、株式会社と合同会社の違いを理解して選択されている方は少なく、どのようなメリットデメリットがあるかも不明という方は多いと考えます。
今回は、合同会社と株式会社の違いをご説明すると共に、今回は主に合同会社の設立の流れについてご説明いたします。
株式会社のご設立についはこちらをご覧ください。
株式会社と合同会社の違いとは
主な相違点は下記のとおりです。
項目 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
設立手続き | 公証役場で定款認証が必要(公証人手数料が必要) | 定款認証が不要(公証人手数料がかからない) |
設立費用 | 最低約20万円
(登録免許税15万円+定款認証代1万5,000円~5万円) |
最低約6万円
(登録免許税6万円) |
出資者の責任 | 出資額を限度とする有限責任 | 出資額を限度とする有限責任 |
運営主体 | 株主総会で決定、取締役や監査役が運営 | 原則として出資者(社員)が運営 |
意思決定機関 | 株主総会が最高意思決定機関 | 社員(出資者)全員の同意が必要(柔軟な運営が可能) |
利益配分 | 出資比率に応じて配分 | 定款で自由に決定可能 |
外部からの資金調達 | 株式の発行が可能(株式市場などで資金調達が容易) | 株式がないため資金調達の方法は限られる |
信用力 | 上場が可能で、取引先や金融機関から高い信用を得やすい | 株式会社に比べて信用力が低い場合がある |
役員任期 | 取締役の任期は最長10年(定款で定める必要がある)
※任期が到来した場合には、登記が必要。(登録免許税が1万円または3万円) |
役員任期の規定なし |
公開性 | 会社の運営内容が外部に公開される(※決算公告義務あり) | 公開性が低い(※決算公告義務なし) |
柔軟性 | 会社法に基づいた運営(自由度は合同会社よりは低い) | 運営が柔軟(定款で自由に定めることが可能) |
上記について、主な点をまとめます。
株式会社は、信頼性が高いが、設立コスト・運営コスト(登記)が合同会社よりも高い。
合同会社は、設立コストは低く自由度も高いが、信用力が低い可能性がある。
ただ、この話をするとよくご質問されるのは、「Amazonやアップルも合同会社ではないか」ということです。合同会社に信頼性がないなら、何故Amazonは合同会社なのか。これは何点か理由があると言われています。
Amazonが「合同会社」である理由
①運営の自由度が高い
先述のとおり、合同会社は定款をかなり細かく定めることができ、利益配分も変更可能です。また、日本と海外では税法も異なることから、会社法上の株式会社で運営するよりも合同会社の方が海外の税法に合わせた運営がしやすいと考えられています。また、合同会社では、出資者が役員という制度ですので、親会社の意向を反映しやすいという点も大きな利点でしょう。
②信用力への影響が少ない
先述のとおり、合同会社は株式会社よりも信用が低い可能性がありますが、Amazonやアップルのような海外の大企業はそれにあてはまりません。あくまでも会社自体の信用がすでにある場合には、合同会社の信用性の低さは関係ないでしょう。
③設立コストの低さには疑義あり
これが理由になるかは正直分かりません。確かに、合同会社は設立コストは株式会社に比べて安いですが、15万円ほどです。これは1個人にとっては大きな額ですが、Amazonにとって大きな額と言えるでしょうか。
合同会社の信用性の話をしたときに、Amazonのお話が出ますが、個人のお客様が法人化で合同会社を選ぶ理由とAmazonが合同会社の形態をとっているのは間違いなく理由が異なります。ただ、私は合同会社を否定しているわけではなく、戦略的に運営を考えた場合には、合同会社は適していると考えます。
合同会社設立をおすすめする場合
株式会社か合同会社か迷っているお客様がいる場合、私は「迷っているなら株式会社」をお勧めいたします。理由としては、やはり取引に株式会社の形態を求める会社もありますし、実感として「合同会社から株式会社への変更依頼」が多いからです。変更理由をお客様に聞いた際のご回答でありますのでは、「取引先に求められた」「合同会社の理由を聞かれるのが面倒」「事業拡大をしたい」等様々が、合同会社ならではのわずらわしさを感じる面も多いようです。
ちなみに、合同会社を株式会社に変更することは可能ですが、期間として2か月以上かかるため、すぐに変更することはできません。株式会社に変更したい場合には早めのご依頼をお願いいたします。
しかし、事業形態によっては、合同会社もおすすめしています。
① 役員の増員を予定していない資産管理会社 ※取引拡大が発生しない
② 飲食店や食品等、会社名よりも店名で運営する会社 ※周りが合同会社であることを知らない
③ メインの事業とは別に複数事業を行う場合のサブ会社
④ DAO等、現状合同会社でのみ運営が可能な形態をあえて選ぶ場合
上記のような場合には、合同会社の選択も悪くはないと思っております。また、ゆくゆくは株式会社に変更するが、今は金銭的な余裕がないため、まずは合同会社で設立するというのも、起業をスムーズにする選択肢としてはアリだと感じております。
合同会社と株式会社の相違点
合同会社も株式会社の相違点について、特に注意すべき点をお伝えいたします。
1.定款の認証が不要(公証人の関与がない)
株式会社を設立する場合には、必ず管轄の公証役場で定款認証を受ける必要があります。これは1万5000円~5万円の費用がかかります。合同会社はこれは不要です。そのため、全体のコストが低くなっているということもあります。ただ、公証人は、定款認証の際に発起人(株主)の確認を行った上で、定款認証をしておりますので、この確認が、株式会社が一定の信頼を確保する理由になっております。なお、定款認証の手続きの中では、反社会的勢力ではない確認もあります。
この定款認証がないことで、合同会社の設立は株式会社よりもかなりスピーディーに可能です。公証役場は予約が必須ですので、繁忙期にすぐに予約が取れない場合が多いですが、定款認証が不要であれば、書類が揃い次第いつでも設立が可能となります。
2.株主と役員が分離していない
合同会社は、出資者が「社員」と呼ばれる肩書となり、これは株式会社でいうと、取締役に近い立場です。株式会社の場合には、出資をする「株主」と経営をする「取締役・監査役等の役員」は同一人である必要がありません。また、同一人にすることも可能です。一方で、合同会社は、基本的には出資した人が株主であり、取締役であるといえます。これは、1人での運営の場合にはスムーズですが、事業拡大を行う場合には、ネックとなることが多く、それゆえに拡大のタイミングで株式会社化する合同会社も多いです。
3.社員/取締役が死亡した場合
株式会社は、株主が死亡した場合でも、取締役が死亡した場合でも、基本的には会社が継続していきます。株主の地位、つまり株式は相続人に承継され、取締役は株主総会により後任者が選任されます。一方で、合同会社の場合には、社員の地位は原則相続人に承継されません。そのため社員不在により、合同会社が解散する可能性があるのです。しかし、これについては、一定の定款規定を設けることが回避が可能です。
(相続および合併による持分の承継)
第〇条 当会社の社員が死亡した場合または合併により消滅した場合には、当該社員の相続人その他の一般承継人は、他の社員全員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。
また、合同会社の社員は「後見開始の審判」を受けることによっても当然に退社(退任)してしまうので、会社が意図せず解散しないように下記のような規定もあわせて記載することをおすすめしています。
・社員が、成年後見開始の審判を受けた場合であっても、社員は退社しない。
このように、株式会社とは異なる内容により解散する可能性もあるため、「社員」がどのような役割を持つが理解をしておく必要あります。
4.社員は任期がない。
合同会社のコストが安い、もう一つの理由は任期がないということです。株式会社の場合には、取締役は最長でも10年の任期(ただし、非公開会社の場合)となります。一方で合同会社は任期がないため、改選を行う必要があります。これはメリットでもありますが、デメリットでもあります。
たとえば、1名で経営している場合には、メリットと言えるでしょう。もちろん、その1名に病気や事故で意思決定ができないような事情が発生した場合には、経営が困難にはなりますが、これは株式会社であっても同様です。しかし、3名で経営していた場合に、1名と仲たがいをしてしまい「辞めて欲しい」と思っても、相手が応じるとは限りません。株式会社の場合には、任期がありますので、その任期を待てば(株主ではないという前提にはなりますが)、辞めてもらうことは可能です。
一方で、合同会社の場合には任期がないため、待っても辞めてもらえません。当該社員の持分を買い取る必要が出てきますので、場合によっては莫大なコストがかかる可能性があります。これは「持分の払戻し」というのですが、その当時の会社の財産状況を反映して金額を決めることになります。
5.決算公告が不要
株式会社は、毎年決算公告を行う必要がありますが、合同会社は不要です。
6.代表社員の住所は必ず表示される
株式会社は、令和6年10月1日より代表取締役の住所を非表示にする選択が可能となりました。この制度は株式会社特有のものであり、合同会社は対象ではありません。合同会社は従来通り、代表社員の住所は登記簿に表示されます。
合同会社の設立登記について
合同会社設立登記の必要書類
実際に合同会社を設立する場合には、株式会社とそこまで必要書類は変わりません。
・社員となる方の印鑑証明書 各1通 ※登記上ではなく弊所では確認のためにいただいています。
・代表社員となる方の印鑑証明書 各1通 ※これは法務局提出用になります。
・会社実印/社員の個人実印
・資本金の移動をしたことを証する書面 ※資本金の移動は株式会社と同様です。下記の記事をご参照ください。
合同会社設立登記の費用
1.合同会社設立登記申請
報酬:118,800円(税込)
実費:登録免許税6万円
1.ー1 商標侵害調査を行う場合 1万円(税込) ※弁理士の方へ依頼いたします。
合同会社設立登記の流れ
① ヒアリング・御見積書ご提示
② 受任契約締結(電子契約によります)
③ 印鑑証明書取得・会社実印発注・資本金の移動手続き ※お客様に行っていただきます。
④ 弊所作成の押印書類に署名・ご捺印(個人実印・会社実印)
⑤ 登記申請 ※この申請日が合同会社の設立日になります。
⑥ 登記完了 ※申請日より1週間ほどで完了となり、完了し次第、会社の銀行口座作成が可能となります。
上記は内容確定がスムーズに進み、必要書類が揃った場合には、最短で2日ほどで登記申請が可能です。公証人との予約が不要であるため、申請がスムーズに行うことができます。
合同会社の設立のまとめ
今回は、株式会社と合同会社を比較し、合同会社の設立についてはお話させていただきました。信用力の問題があるとはいえ、コストが低いことはやはり魅力的だと感じます。一方で、自分がどんな風に事業を展開していきたいか、によりどの形態を選択するかは変わってくるでしょう。ご自身の事業の、2年後、5年後、10年後を考えた上で法人化について検討されるのが良いと考えます。
設立を考えましたらまずはご相談いただくことをおすすめいたします。
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私が記事を書きました。
中小企業をを元気にする活動をしています!!
司法書士・行政書士/植田麻友
1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。経営者とその家族まで支援できる企業・事業承継支援を行う。 |
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