【商業登記】代表取締役の住所非表示措置について
司法書士の植田麻友です。
※代表取締役の住所の非表示措置がとられた場合であっても、代表取締役の住所に変更があった場合には、法務局に代表取締役の住所の変更登記の申請が必要になります。
令和6年10月1日より株式会社の代表取締役等を住所を登記簿に表示しないことができる制度が始まりました。
従来、代表取締役等は、登記簿に原則住所が記載されていたものが、表示されなくなる制度です。
ただし、今までの表示が全くなくなるわけではないですし、いつでも非表示に移行することが可能なわけではないので、その点をご説明させていただきます。
①代表取締役等の「等」とは
株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人
②非表示はどこまで「非表示」なのか
行政区画以外のものを記載しない措置※全く表示されないわけではありません。
「行政区画」とは、都道府県及び地区町村のこと、指定都市については「区」を含みます。
③対象会社
株式会社のみとなります。
特例有限会社や合同会社も含みません。
④非表示措置はどのタイミングでとることができるのか
まず、この非表示措置は、その措置だけをとることはできず、他の登記申請と同時に行う必要があります。
主な申請については下記のとおりです。
・株式会社の設立の登記 ※設立登記と同時申請で可能です!
・本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記
・代表取締役若しくは代表執行役の就任若しくは住所変更による変更の登記
・清算人の登記又は代表清算人の就任若しくは住所変更による変更の登記
⑤非表示措置をとるために必要な書類(※上場会社以外の場合)
非表示措置を実施するにあたっては下記の書類を準備する必要があります。
なお、今回は司法書士に依頼する場合を想定して、必要書類を記載しております。
・株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面
・代表取締役等の住所等を証する書面
・株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面
※具体的な書類について司法書士への確認をお願いいたします。実在性の確認については、配達証明郵便の記録を使用する場合も多く、時間がかかる可能性があります。
⑤代表取締役の非表示措置の継続
代表取締役非表示措置を講じられている代表取締役の住所と同一ものを登記するときは、引き続き非表示となります。
(例:管轄外本店移転・重任・再委任登記。※住所変更がない場合に限る)
⑥非表示措置がされた場合の表示例
例えば、代表取締役等が重任(住所変更なし)の場合には、記載のように「〇月〇日重任」と新たな記載がなされますが、その上部には、過去の記載、つまりは重任前の住所がそのまま登記されている状態です。過去の記載は消えないことに注意が必要です。つまり、住所変更を伴わない非表示措置は実態上意味がないのではないか、という問題です。
代表取締役等住所非表示措置利用したとしても、住所が分かってしまうということです。
商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(令和6年7月26日付け法務省民商第116号法務省民事局長通達)より
⑦非表示措置を停止することができるのか
停止することは可能です。非表示措置を実施した株式会社自身が停止をすることもできますが、当該会社以外の第三者も一部の人に限り停止することが可能です。
非表示措置の停止は、実施する場合とは異なり登記申請と同時である必要はなくいつでも可能です。
停止が可能である例
・代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があった場合(※単独で可能。登記申請と同時でなくとも可能)
・株式会社の本店所在場所における実在性が認められない場合(※登記官による確認が行われる※司法書士・弁護士の提出)
・上場会社でなくなったと認められる場合(※上場会社だった場合)
・閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められる場合
⑧非表示措置に対する懸念
代表取締役等の住所が表示されていると、代表取締役等の個人のプライバシーの問題があります。
個人の住所を知られることで、嫌がらせやストーカー被害に遭う可能性もあると考えます。
こういった個人を保護するという面では、非表示措置は非常に有用であると考えます。
一方で、株式会社(法人)が持つ信頼性を考えると、会社によっては代表取締役等の住所が表示されないことが信頼を損なう理由になりかねません。
現在は、代表取締役等は、住所氏名が登記簿に記載されており、それと各代表取締役等の身分証明と記載を照らし合わせて、代表取締役等のご本人を確認しますが、その確認事項は1つ減ることになります。
減ることで、追加の書類や追加の確認が、あらゆる取引の場面で発生することが考えられます。
手間が増えることを負担に思わない会社もいらっしゃると思いますが、
取引先にも手間のかかることですので、同じ条件の会社があった場合に、住所を表示している会社の方が、
取引先が安心すると考えても、おかしくはないのです。
潜在的なリスクを防止するためにも、代表取締役等の住所の非表示措置は慎重であるべきであると考えます。
なお、何か不利益を被った場合には、非表示措置を終了させることもできますので、その点はご認識いただけえればと存じます。
法務局のページにも下記のような注意書きがございます。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な御検討をお願いいたします。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法(平成17年法律第86号)に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、登記の申請書には代表取締役等の住所を記載する必要があるため、登記されている住所について失念することのないよう御留意ください。
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私が記事を書きました。
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司法書士・行政書士/植田麻友
1988年岸和田生まれ、堺育ち。2011年司法書士試験合格。父親が中小企業経営者であったが、幼い頃に会社が倒産し、貧しい子供時代を過ごした経験から中小企業支援を決意。経営者とその家族まで支援できる企業・事業承継支援を行う。 |
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